わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

オオムギ(イネ科・オオムギ属)

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今朝の地元紙によれば、岡山県有数の二条大麦の産地である岡山市南部の児島湾干拓地が「麦秋(ばくしゅう)」を迎えたとあります。一面に広がる広大な麦畑で穂が黄金色に輝き、刈り取り作業が本格化しているそうです。ちなみに「麦秋」は俳句では初夏の季語です。

 

オオムギはビールや麦茶の原料になります。麦ごはんの麦もオオムギです。全国各地で栽培され、100%国内産だそうです。一方、コムギからは小麦粉が作られ、タンパク質の含量の多い順に強力粉(パン用)・中力粉(ウドン用)・薄力粉(ケーキ・お菓子用)になります。コムギは北海道で一部(全体の15%)作られる他は、アメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入です。

 

今日のスケッチはオオムギです。インターネットによると、穂から出ているひげのような突起(ノギ)が穂よりも上に出ているのがオオムギ、短くて不揃いなのがコムギだそうです。オオムギは私も水耕栽培した経験があります。皿の上に水を含ませた脱脂綿を敷き、そこにオオムギの種をまくと、数日で緑色のきれいな葉が元気よく出てきます。

 

最近はスーパーに行っても新型コロナのせいで小麦の強力粉が売り切れです。我が家ではいつもパン焼き器でパンを焼いているので、強力粉が手に入りにくいので困っています。政府によればコムギの備蓄は十分量あるので、心配いらないとか。一方、オオムギはビールの消費が伸び悩んで、国内で余り気味。今年の夏は暑いという長期予報がでているので、ビールや麦茶の消費が伸びるかもしれません。

 

ハナショウブ(アヤメ科・アヤメ属)

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アヤメとハナショウブとどこが違うのだろう。他によく似た花にカキツバタがあるけれど、これとの違いは? こう聞かれると実は私もよく分かりませんでした。「いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)」という言葉が昔からあって、広辞苑によると「どちらもすぐれていて優劣のきめがたい意」とあります。とにかくこの3つの花はよく似ていて区別が難しいようです。アヤメもショウブも漢字で書くとどちらも菖蒲。ますますややこしい。アヤメという名前はもともとは文目(あやめ)から来ているそうで、一番外側の花びら(実際はがく片に当たる)の基部に白色の文目(すじ模様)があります。一方、ハナショウブではそこが黄色い帯になっています。アヤメはやや乾燥した場所で生えて5〜10cmの小ぶりな花をつける植物。一方ハナショウブはやや湿った場所で生え10〜20センチの大きな花をつけます。

 

ハナショウブカキツバタの区別は更に難しそうです。花の模様はこの2種類でそっくり。しかし、ハナショウブは上に書いたように半乾燥半湿地で生育しますが、カキツバタは湿地で育つという違いがあります(確かに、尾形光琳作の国宝『かきつばた図屏風』では、水や橋は描かれていませんが、かきつばたは池の中に生えているイメージです)。更に最後の決め手は、ハナショウブの葉は幅広で白い線があるのに対して、カキツバタの葉は幅広で線なし。アヤメの葉は細長いそうです。さあ、これで3種の植物を区別できるでしょうか?

 

スケッチ好きな私にとっては、これらの花の青や紫の色が貴重で、花の形も和風で魅力的です。今回描いたのは多分ハナショウブでしょう。しかし、花の区別はもうどうでもいいという気分です。

 

最近は実に便利な世の中になっていて、インターネットで調べるとこのアヤメ、ハナショウブカキツバタの違いをあちこちで教えてくれます。YouTubeにもとてもわかり易い説明があります。

 

 

ボタン(キンポウゲ科・ボタン属)

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大きくて派手な赤紫色の花が5月頃咲きます。蕾が見えると、花が咲くのが待ち遠しいです。光沢のある布を幾重にも重ねたような独特の花が豪華。もともと中国が原産で、奈良時代に日本に伝わりました。この花を描くのはなかなか厄介ですが、苦労して描きあげると達成感が残ります。葉は大きな切れ込みが特徴です。花を描くのが面倒なら、蕾とこの葉を一緒に描くのも楽しいです。

 

現代では白、黄色、ピンクなど色々な花の品種が作られています。各地にボタン園があり、季節になると多くの人が訪れます。私にとってボタンというと島根県松江市大根島。私が生まれた松江市郊外の田舎の町から、中海に浮かぶ平坦な大根島が見えます。今は干拓で陸続きになりましたが、以前はポンポン船で島に渡りました。ここにはボタン栽培農家が多数あり、有名なボタン園(由志園)も。今でも、私が住んでいる岡山市へ行商でボタンの苗を売りに来る人がいます(最近は残念ながら見なくなりました)。島では朝鮮人参も栽培。大根島へは鳥取県境港市からも車で行けます。

 

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フサアカシア(マメ科・アカシア属)

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毎年、我が家の庭で春一番に黄色い見事な花をつけるのが、このフサアカシアミモザという名前で親しまれるマメ科植物で、成長が早く、背の高い大きな木になります。我が家のフサアカシアは次第に隣家の敷地に大きく出っ張ってきたので、残念ながら昨年、根元から切ってしまいました。オーストラリアのタスマニア原産。南半球の熱帯、亜熱帯に広く分布し、特にオーストラリアに多く見られます。早春には他に、レンギョウサンシュユ、マンサク、ダンコウバイ、トサミズキなど、多くの木が黄色の華やかな花が咲かせ、私達に寒い冬から明るい春の季節への変化をいち早く知らせてくれます。

 

数年前、スケッチのツアーで南フランスに行った時、ミモザという名前の美しい町でスケッチしたことがあります。その時以来、ミモザに親近感をもっています。ちなみに1960年に西田佐知子によって歌われて流行した『アカシアの雨がやむとき』のアカシアはニセアカシア(ハリエンジュ)でフサアカシアとは異なり晩春に白い花を咲かせる北米原産のマメ科・エンジュ属の木です。日本ではアカシアといえばこのニセアカシアのことを指します。清岡卓行芥川賞受賞作『アカシアの大連』で描かれた中国・大連のアカシアもニセアカシアです。中国ではこの木がやせ地に強いことから街路樹などとして多量に導入されているそうです。ニセアカシアからは美味しい蜂蜜がとれます。

 

 

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この本もう読みましたか?  『楽園のカンヴァス』(原田マハ著、新潮文庫)

2020年5月22日

 

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文庫本の表紙カバーは有名なアンリ・ルソーの「夢」。ルソーが1910年にアンデパンダン展に出品した油彩画で、ニューヨーク近代美術館所蔵の作品です。ルソーはこの作品を出した年の夏の終わりに66歳で死去。これはルソー最後の作品です。ジャングルの中に置かれたソファーに横たわる裸婦。その回りにライオンやゾウや蛇や鳥や笛を吹く土人。ジャングルの植物が明るい緑色や暗緑色で生き生きと描かれていています。この本のカバーを見た時、読者は「さあ、これからルソーのどんな世界に導かれるのだろう」と期待に胸が膨らみます。

 

『楽園のカンヴァス』はルソーのこの「夢」にまつわるミステリーです。ミステリーは倉敷の大原美術館ニューヨーク近代美術館MoMA)、スイスのバーゼルを舞台に展開します。著者のMoMAや日本の美術館関係ので仕事の実体験がこの作品中に十分生かされています。

 

私は普段、美術館では学芸員(キュレーター)とか監視員とかの区別がつかなくて、会場でじっと座って展示室の世話をしている人は殆ど学芸員だと思っていたのですが、本文を読み始めるとそうではないことがすぐに分かってきます。どうやら正式な学芸員になるには経験も知識もアカデミックな研究歴も必要で、かなり難かしそうです。世界的に著名な美術館となると学芸員になる道はますます厳しいでしょう。そんな美術館の内情を全く知らないでこの本を読み始めて、いろいろこの世界の複雑さを教えられました。

 

それにしても、著者の話の展開は劇的で面白い。ストーリーがよく考えられています。普段ミステリー文学にほとんど縁のなかった私にとっては、何もかもが新鮮でした。舞台の一つである倉敷は私の住んでいる岡山県にあるので、大原美術館にはよく行きます。ちなみに島根県松江市の小学校を卒業した私の修学旅行先は、倉敷の大原美術館と四国の栗林公園屋島金刀比羅宮でした。その時、エル・グレコの「受胎告知」をはじめ西洋名画を生まれて始めて目にしました。興奮して絵葉書も何枚も買ったおぼえがあります。そんな美術館が本文中に登場してきて親しみを憶えます(著者の原田マハさんは中学・高校時代を岡山市内で過ごしました)。

 

今は日本人の多くがいろいろな機会に西洋絵画に触れることができるのですが、その展示の裏で行われている展示企画などについての様々なことには、余り目が向けられません。この『楽園のカンヴァス』は、そういう学芸員、監視員、研究者、美術収集家などの世界をかいま見せてくれる興味深い作品です。読後はとても爽やかな印象。そしてこの本を読んで、ルソーへの理解がまた一段と深まったのも良かったです。

 

コロナ後は 何を描いて 生きようか・・・

2020年5月18日

 

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「アフター・コロナ」とか「ポスト・コロナ」とか、最近は、新型コロナウイルス感染以降の人々の生活のあり方が話題に上ります。手洗い、マスク、三つの「密」を避ける。これが生活の基本ということでしょう。

 

今日から私の高齢の母親がデイケアを再開しました。ほぼ2ヶ月ぶりです。新型コロナウイルスの全国的な流行で、施設での感染が心配になり、自発的に中止していました。今朝迎えに来てくれた車は、いつもと違って3人がけのシートの真ん中を空けて2人がけにし、窓も少し空けていました。車に乗り込む前には今朝の母の体温を聞かれました。新型コロナ対策です。施設も「アフター・コロナ」に対応しているのです。

 

今朝久しぶりに地元の郵便局に行きましたが、ここも窓口には飛沫防止パーティションを置いていました。床には並ぶ人の足の位置を示す印も。これがこれからの社会では常識になるわけですね。

 

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私は、退職後は自称「絵描き」として、5年おきの「起・承・転・結」で20年ぐらい元気で活動することを目標にしていました。しかし、退職5年ほどの今回の新型コロナでいきなり「転」がやってきたような気がします。こうなると「結」も意外と早いのか・・・。新型コロナ感染が「結」だったりすると、悲惨だなあ・・・。最近はこんなことを考たりします。「アフター・コロナ」をどうするか、これはそれぞれの人に突きつけられた問題です。

 

例えば私が一つの「自分プロジェクト」と思ってやってきた日本各地を旅しての水彩スケッチ。まだあちこち行きたいところは沢山あるのに、これも今後は恐らく無理。せいぜい近場へ一人で車で出かけるか、もう野外スケッチは最小限にして家で花でも描くか・・・。数年前に描いた植物のスケッチブックを取り出して、しばらく眺める。しかし花の絵で個性を出すのは難しそうです。世の中に花の絵が得意な人は多く、その中でアピールするのは大変。

 

こんな具合で、あれかこれか・・・、さあ何をどうするか・・・。何となく「しょぼい起業」でもするような感じもありますね。しょぼくてもいいから夢を持ちたい。これからは生活の様々な場面で試行錯誤をしながら、「アフター・コロナ」を生きていくことになりそうです。

 

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(絵は数年前に描いたチューリップ、ヤマブキ、ミツバツツジ:鉛筆と水彩)

こんな本読んだことありますか?   『吾輩も猫である』(赤川次郎、新井素子、石井衣良、荻原 浩、恩田 陸、原田マハ、村山由佳、山内マリコ著、新潮文庫)

2020年5月16日

 

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裏表紙カバーの「内容紹介」によると、夏目漱石没後100年&生誕150年記念出版だそうです。猫好き作家8名が漱石の「猫」に挑む!とあります。2018年新潮文庫の100冊に選ばれました。

 

どの作品も猫に対する愛情にあふれています。作家のスタイルがそれぞれ違うので、私のように現代の流行作家の本を普段あまり読まない者には、作家の個性を知るよい機会になります。短編なのですが、かなり心に残る作品もあります。猫そのものの物語、猫と飼い主の関係、猫よりむしろ飼い主の物語、など作品ごとに猫を捉える視点が様々なのが面白い。

 

赤川次郎。昔、若い作家だなあと思っていたら、私と同い年ですか。多くの作品を書いて、ずいぶん歳を重ねられたんですね。流れるような会話を中心につづられるストーリーにはやはり引き込まれます。

 

新井素子。SF作家。もうベテランでしょうね。登場する猫の名前が「バクテリオファージT4」。まるで分子生物学の世界です。文学なのに理系の、特に生物学の雰囲気があちこちに漂います。

 

石田衣良。この作家ももうベテラン。恋愛文学で売れっ子という私の認識で間違っていないでしょうか。実は私まだこの人の作品は(若者向きという気がして)読んだことがありません。以前テレビに出演していた時の印象は「かなり好感度」でした。

 

萩原 浩。この人も結構いい歳だなあ。作品は小説ではなく4コママンガ。これがとても面白い。何度読んでも笑ってしまう。それぞれの4コママンガの中に主役の猫の愛らしさが溢れています。ユーモアとウイット。この人のユーモア小説を是非読んでみたい。癒やされそうだ。ホラー作品もユーモア作品も書ける人のようです。

 

恩田 陸。この人もそれなりの年齢。長編小説「蜜蜂と遠雷」で評価されている。この人の作品はファンタジー、ミステリー、ホラーとかなり多面的らしいのですが、私はまだ彼女の作品をしっかり読んでいません。この猫の作品はちょっとミステリアスな雰囲気でした。

 

原田マハ。この人ももうベテランと呼べる年齢。ユーモラスな作風で私好みです。美術を題材にした最近の作品が有名。絵が好きな私としては、是非その作品を一通り読んでみたいと思っています。

 

村山由佳。この人も上の作家達と同じような年齢層に属している。恋愛文学でかなり注目されているという評価で正しいでしょうか? 私のような高齢者が読む作品ではないと思って、彼女の作品も読んでいません。ただ、先日NHKテレビでこの作家と猫との生活が取り上げられていて興味を持ちました。今回紹介している『吾輩も猫である』を読むきっかけは、実は村山さんの猫との関わりを描いた作品がここに収められていたからでした。期待通り、この8つの作品の中で、もっとも印象に残ったのは村山さんの作品でした。また彼女の猫を扱った本格的な作品を読んでみたいと思いました。

 

山内マリコ。8人の作家の中では一番若い。この猫の作品は、若い女性の感性を感じさせる作風です。猫と接する若い世代の人達の暮らしや人生観みたいなものが伝わってきます。

 

同じ猫を描くにもこんなに違う描き方がある。これは絵の世界と同じです。作家の個性が出る。本を読む。絵を見る。それによって、作者に近づき、作者を知る。これはとても豊かな時間の過ごし方だとしみじみ思います。