わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

アメリカの 学生素直で 初々しい (カリフォルニア大学サマースクール)

2016年7月
 
カリフォルニア大学に勤務している30年来のアメリカ人の友人に頼まれて、滋賀県草津立命館大学でのカリフォルニア大学サマースクールで講義をしてきました。趣味の絵の話でも何でもいいから話してくれと依頼され、1時間の約束で引き受けました。アメリカの学生に講義をするのはこれが初めて。そしてこんなことは多分これが最初で最後だし、一生の思い出になるだろうと思いながら出かけました。

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岡山から京都まで新幹線。それから在来線で南草津へ。ちょっと時間にゆとりがあったので、先日買った「全日本鉄道旅行地図帳」にあった草津駅の名物駅弁「近江すき焼き弁当」を思い出して、「よし、その駅弁をお昼に食べて元気をつけてから立命館に行こう」と決めて、南草津を通り越して草津駅で降りました。ところが駅のホームにも構内にも、駅前周辺でもどこにも駅弁を売っていません。食中毒の時期なので作っていないのでしょうか。仕方なく駅の近くのレストランでビーフカレーを注文しました。近江牛ビーフカレーを期待しながら……。気温は32度ぐらい。丁度食事中にザーッと雨が降ってきました。蒸し暑いです。それからJR南草津駅に引き返し、駅前でバスに乗って立命館びわこキャンパスへ。大きな私立大学に足を踏み入れるのは久しぶりです。立命館大学に来るのは大学生時代にサークルで京都の立命館に行った時以来なので、実に47年ぶりでした。広大なキャンパスに大きな建物が配置されていて、なかなか魅力的な大学でした。立命館の理系学部がここに集まっているようです。南草津駅からシャトルバスがどんどん来ます。ちょっと聞いた話では、今新たに別の場所に新キャンパスを建築中で、そのうち、このキャンパスから大学が移動するのだそうです。これでもキャンパスが手狭なのか、交通の便がいまいちなのか、大学の存在に頼っている草津市にとっては厳しい話かもしれません。

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午後12時40分前に教室へ。すでに学生さん達30人は全員教室にそろっていました。皆、昼食を食べた後で、ゆったりとした格好で自由に本を読んだりノートを広げたり友だちと話をしたりしています。女子学生が7割ぐらい。多くの学生がカリフォルニア大学デービス校のスクールカラーの青色のTシャツと短パン姿です。ざっと見たところアジア系が半分ぐらい。でも日系ではなく、中国系や東南アジア系が多いようです。あとは白人かヒスパニック(中南米スペイン語圏)、黒人はいなかったようです。教壇の上でパソコンでのスライド映写の準備をして、資料を配って、午後1時丁度に簡単な紹介を受けてから私の話がスタートしました。
 
カリフォルニア大学の学生に話をしてくれと頼まれたのが今から1年前。それ以来、それなりに準備をしてきました。特に、めったに無い経験ですが英語で話すことになるので、アメリカの英語に慣れるためにインターネットのアメリカのテレビやラジオの放送を日頃から聞くようにしていました。NHKのラジオ英会話やビジネス英語も欠かさず聞きました。しかし、個人的にはイギリスのBBC放送が好きで、それを聞いている時間が圧倒的に多かったので、英語もおのずとイギリス英語の影響をうけた日本人英語になっていました。私の話を聞いてくれた学生さんは、普段耳にするアメリカ英語とは違うおかしな英語だと思ったかもしれません。
原稿も作ってそれを何度も事前に読んで練習はしていました。しかし、本番になると、アドリブでいろいろな話をついやりたくなって、英語が下手なくせにいろいろ脱線して他の話もしてしまいました。そんな時には、動詞の過去、過去完了形を間違ってしゃべったり(過去と過去完了に、全部規則的な接尾語-edをつけてしまう)、女性が主語の話をしているのに、所有格がついhis になったり、と英語がめちゃくちゃになってしまいました。相手は何しろアメリカのエリート学生なので(カリフォルニア大学デービス校は生物学系では全米でトッブ5に入る大学です)、こんな単純な間違いは何と言っても恥ずかしいです。
 
それでも学生さん達は私の話が始まると、興味津々の目で私を見てくれます。日本の大学と違うのは、まず、学生さんが教室の最前列から順に並ぶこと。私のすぐ目の前に学生さんがいて私を見ています。そして、私が話したことが面白いと(私は意図して冗談を言ってはいないのですが)声を立てて笑い(どうやら学生さんの方から笑いで楽しく盛り上げようとしている感じがしました)、内容が日本の環境問題、特に原発事故や地震津波の話などになると、深刻な顔で「OhNo!」と声をあげ、とにかく教室のリアクションがすごいのです。こちらが質問すると手をあげて答え、話の後半に話のついでに私の水彩画をスライドで見せ始めると教室内が大きくどよめき、「この絵をだいたい1時間から3時間で描いて全部仕上げます」と言うと、「Really? ホントですか?」と驚きの声があがり、数枚の絵を見せて、「絵はもうこれでおしまいです」と言うと、「No! もっと見たい! 」と言う声が聞こえ、最後に講義を終わると大きな拍手が来ました。こういうのがinteractive (相方向の)講義というのでしょうね。日本だと大きな講義室に100人以上の学生さんがいるのに、みんな大きな講義室の後ろ半分に座って、こちらが話しても淡々とした表情でシーンと大人しく話を聞いていて、質問を促してもだれも質問しないのが普通です。黒板に字を書くと字が小さくて見えないと文句がでます。中にはずっと携帯をみている学生もいます。この教室の雰囲気の差は大きいですね。アメリカの学生さん達は自分たちで教室の雰囲気を作っているなあ、と強く感じました。講義をする方も、この雰囲気に乗せられて話がどんどん進みます。
 
講義を終わった後、多くの学生がThank you ! とわざわざ教壇の横に来て笑顔で声をかけてくれるのも嬉しいです。よく見ると、女の子達はあまり化粧もせず、服装も初めに書いたようにいたってシンプルで、勉強道具をいれたデイパックを肩にかけて教室を出ていきます。日本のおしゃれな女子学生をみなれていると、この違いもなんだかショックです。付き添いのカリフォルニア大学の教員に聞くと、彼らは一見あどけななく見えて普段友だちとじゃれあったりしている様子などまるで高校生みたいに見えるけど、これがいったんペーパーテストになると、びっくりするぐらい集中して素晴らしい答案を書くのだそうです。これだとやっぱり日本の学生は馬力負けしますね。ちなみに、今回の生物コースのサマースクールは1ヶ月間で、立命館でカリフォルニア大学の教師のもとで毎日午前中は講義と問題解きをみっちりやり、午後は時には私のような非常勤の日本人教員から日本の文化、言語、アート、文化、科学などの話を聞くことありますが、午後の殆どは自由に外に出て現場を見るという研修です。多くの学生が京都、大阪、神戸、奈良に出掛けているようです。教員は付き添ったり付き添わなかったり。しかし頻繁に携帯で全員と連絡をとっています。学生さん達は、自由に、異国の文化に触れる「冒険」を楽しんでいるようです。
 
このサマースクールの参加費ですが、実は高額です。よく知られているようにアメリカの一流大学の授業料はとても高いです。例外はありますが、基本的に裕福な家庭の学生しか大学に行けないような状態のようです。ちなみに私の講義を聞いてくれた学生さんたちの将来の進路は、医学系、薬学系、基礎科学系で殆ど90%以上がそのような専門職を目指す人達だそうです。アジアの裕福な家庭の子弟が高額な入学金と授業料を払ってアメリカに留学して、やがてアメリカで花を咲かせ、一部は帰国して本国のエリートになるというケースが多いようです。
 
私は今回、多分人生一度切りの貴重な経験をさせてもらいました。アメリカの学生さん、何だかとても素直で明るく、高校生のような初々しさがあり、また将来への希望に溢れているように見えました。日本の若者も、安全志向で内向きにならずに、海外にもっと出て、外の雰囲気を知って人生の大きな目標を持ってほしいと強く思いました。その昔、札幌農学校のクラーク博士が日本の男子学生に向かって、Boys, be ambitious.と言ったのは有名ですが、「青年よ、大志を抱け」というよく知られた日本語訳はちょっとおだやかすぎる日本語訳ではないかと思います。クラーク博士は、本当は、「日本の青年よ、もっと野心を持て、意欲的になれ、やる気を見せろ」と言いたかったのだと思います。
 
最後に別れ際に教室の学生達が予め用意していたカードを渡されました。カードいっぱいに感謝の言葉が書かれていました。アメリカの学生さんは一般に自信たっぷりな堂々としたイメージがありますが、この子たち、意外と情緒的な面もあるんだと感心しました。

 
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