わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

2022年8月19日

 

「彼方より風吹き渡る真葛原」

 

今日の季語は「葛」。今あちこちに葛が繁茂している。これを目にすると植物の強い生命力を感じる。『今はじめる人のための俳句歳時記』(角川ソフィア文庫)で「葛」を見た。

 

「葛は繁殖力が強く、長い蔓を伸ばして谷などをたちまち埋め尽くす。真葛原は野を一面におおっている様子。風に吹かれると白い葉裏が目立つところから、『恨み』に掛けて『裏見葛の葉』という。赤紫の花が美しい。」

 

大木でも葛の葉に全体を覆われているのをよく見る。こうなると光がささなくなるので、下の木の方は命を脅かされる。植物同士でも光を求める生存競争が激しいのだ。地面を覆う葛の葉の下はどんな環境なのか、他の小動物にとっては生きやすいのか、あるいは過酷な環境なのか、知りたくなる。

 

「葛」を季語にした句を紹介する。

 

「嗄れ声の一羽がわたり真葛原」     河合照子

首塚の葛の葉引けば山動く」      古舘曹人

 

第1句。声が嗄(か)れた鳥とはカラスだろうか。広い葛の原を飛んでいる様子が目に浮かぶ。第2句。葛を引くことはよくある。そうすると全体がわさわさと動く。それを山動くと表現したところがうまい。作者は首塚の掃除でもしているのだろうか。

 

「真葛原」を「葛の原」としたいところだが、句例で「葛の原」と詠んでいる句は殆ど無い。俳句では勝手に季語を変えてはいけないという決まりがあるらしく、「葛の原」は「真葛原」と詠むことになる。