わたしの水彩スケッチと読書の旅

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美術館をめぐる旅 ― 京都国立博物館


2019年5月
 
「国宝 一遍聖絵(いっぺんひじりえ)と時宗(じしゅう)の名宝」展を観るために、京都国立博物館に行きました。京都駅から東方向へ徒歩で30分ほどの所です。ちょうど七条の三十三間堂の前になります。

今日は京都駅の八条口から歩いてみました。この辺りは再開発が進んでいて、古い住宅などが比較的低層のホテルなどに建て変わっています。その結果、日本の都市の駅裏のどこにでも見られるような雰囲気の通りとなっていて、京都らしさはまるで感じられません。こういう再開発が京都の市中でどんどん進められて、京都の独特の古い町家などが次々と失われ、古都の雰囲気が損なわれています。よく言われることですが、そもそも京都の玄関口であるJR京都駅前に昔から建っている京都タワーが、本当に京都の街に似合うのか。これもずっと疑問でした。このタワーは、京都の街とは不釣り合いに思えますが、今や京都のシンボルとして欠かせない存在なのでしょうか。


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正午前の時間になったので、博物館に入る前に近くの和菓子屋さんで昼食を取りました。この辺りでかろうじて昔の町家の面影を残す貴重な建物です。玄関から座敷にあがると、庭も見える古い和室。和菓子屋で昼食というのも妙ですが、赤飯を中心としたなかなか京都らしいメニューで満足しました。

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さて一遍聖絵ですが、ここに来る前には特に具体的なイメージはありませんでした。ただ、岡山の備前長船(おさふね)の吉井川と旧山陽道がぶつかるあたりに、中世の鎌倉時代にはにぎやかな市(備前福岡の市)が立っていて、それがこの一遍聖絵に描いてあることは知っていました。今回それを是非見てみたいと思っていました。福岡県福岡市の名前が備前福岡に由来するという話は有名です。
 
日本各地を歩き、時宗の布教を通して多くの人々を救済した一遍上人の生涯が円伊の筆で全12巻にわたって描かれています。絵巻は1299年(鎌倉時代後期)に完成。当時の都と地方の様子や人々の暮らしが丹念に描かれています。特に巻絵いっぱいに描かれている人物描写のすばらしさには圧倒されます。さすがに国宝です。
 
目的の福岡の市の絵は巻4にありました。「備前吉備津宮の神主の子息の妻、一遍に帰依し出家。怒った夫は一遍を追い福岡の市で見つけるが、会うなり改心し出家する」と説明書きにありました。見ると、画面の左側に吉備津宮らしき建物があり、そこから馬で追いかける夫と付き人の姿が中央に、そして画面左に人々で賑わう福岡の市。備前焼の大がめが沢山並んでいるのも見えます。そして福岡の市の前で刀を抜く夫とその夫に説教する一遍の姿がありました。しかしそれにしても、宮司の息子夫婦が揃って出家したとなると、吉備津宮では後継者問題でもめたでしょうね。現在の備前一宮の吉備津彦神社から吉井川まではずいぶんと距離があります。少なくとも旭川と吉井川の2つの大きな川を越えなければなりません。直線距離で約20kmあります。そこまで夫は一遍をよく追っかけたものだと感心します。ちなみに、吉井川も他の川と同じく大雨でよく氾濫し、昔の「備前福岡の市」跡は川に流されてなくなってしまったようです。

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帰りに博物館売店で「日本の歴史をよみなおす(全)」(網野善彦著、ちくま学芸文庫)を買いました。日本の中世史を学ぶ上では欠かせない入門書と言われています。この本には今日観た一遍聖絵の解説がたくさんでていて、とても興味深く読めます。京都国立博物館には何度も来ますが、JR京都駅から近く、いつ来ても気持ちのいい博物館です。

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