わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「俳句世がたり」(小沢信男著、岩波新書)

2019年2月13日


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世の中は今、静かな俳句ブームなのかもしれません。毎週日曜日の朝に放送しているNHK Eテレの「NHK俳句」を見ると、若者も高齢者も俳句づくりを楽しんでいるのがよくわかります。私も、自分の旅・スケッチブログのタイトルに俳句とも川柳ともつかぬ駄句を載せていますが、旅先で詠む五・七・五の調子は妙に心地よく、旅の印象のまとめる道具としてちょうどいいと思っています。ただ私の場合、技術的に俳句や川柳の力をつけたいという気持ちはあまりありません。ただ毎回、明るくユーモラスに旅の印象や自分の心情をまとめたいとは思っています。

 

しかし、こんな調子で旅・スケッチブログを5年以上も続けるうちに、時には俳句や川柳の専門家の話を聞いたり参考になる本を読んでみたりしたい、という気持ちがでてきました。そんな中、先日、本屋で出会ったのがこの「俳句世がたり」。著者は1927年東京新橋生まれの91歳。「東京百景」や「東京骨灰紀行」など東京をテーマに多くの著作を残している作家です。「俳句世がたり」を、本文中の俳句を楽しみながら読み進むと、著者独特の口調もあって、本全体から江戸文化や古い東京の香りがただよってくるような気がしました。そして古今の俳人の代表的な俳句を紹介しながら、日本の過去、特に自分が生きてきた東京の過去を思い出深く語り、現在の日本社会を強烈に憂える。江戸っ子気質あふれる批判精神が随所に光っています。まさに「世がたり」です。本文中のどこか特定の箇所を抜き出して紹介したいと思いながら読み返すと、どこも同じように私にとってはインパクトがあって、ひとつだけを抜き出せない。90年生きて日本を眺め、書き続けてきた作家の世の中への思いがあふれています。

 

俳句の鑑賞のような形をとりながら、出てくるのは強い社会批判と現代の政治批判。俳人が五・七・五で詠んだ句の真意を、その俳句の詠まれた時代背景を解説しながら読者に丁寧に伝える。これは相当な力量を要する仕事です。そしてこの仕事は、それぞれの俳句を詠んだ人への愛情や敬意がなければできないと思いました。この小沢信男という人は、同じ文学仲間が好きで、市井の人々が好きで、人間が好きな人なのだとわかります。私より20年以上も先輩の小沢さんの人間に対する興味の有り様は、少し見習わなければならないと思いました。私は水彩スケッチを続けながら、この境地を目指したいと思います。