わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか?   『ボートの三人男』(ジェローム・K ・ジェローム著、丸谷才一訳、中公文庫)

2020年5月11日

 

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新型コロナで気持ちが沈みがちな毎日。ちょっと笑ってホッとするような小説は無いかと、ネットで検索していたら、この『ボートの三人男』に行き当たりました。世界で愛読されている英国のユーモア小説の古典、とあるので、よしこれを読んでやろうと読み始めました。

 

3人の男と1匹の犬がテムズ川をボートを漕いで旅をする話です。最初、テムズ川を下る船旅かと思ったら、そうではなくて川を上るのです。従ってボートを漕いだり人力でボートを引いたりする場面が出ます。テムズ川が日本の川のように急流ではなく流れが緩やかで、場所によってはボートを漕いで上れることを頭に置いておく必要があります。そして出来ればグーグルマップでロンドンからオクスフォードまでのテムズ川流域の地図を確かめながら読んだほうが分かりやすいでしょう。

 

もともとこの本は、テムズ川をボートで旅する旅行案内書として書かれたようです。ユーモアたっぷりの話が随所に盛り込まれているので、ユーモア小説として有名になったみたいです。しかし、はじめから無理やり読者を笑わせようとする著者の意思も見え隠れして、最初の1章から3章まではなかなか気分がのりません。この部分は旅の準備の話なのでそうなるのかもしれません。しかも話は19世紀のイギリス。ちょっと現代感覚からずれたイギリス庶民の生活や歴史の記述で溢れます。でも4章から旅が始まって最後の19章の旅の終わりまで、読み進むうちに次第に船旅の雰囲気が出てきます。そして、何となく時代を超えて人間がやること考えることで「おかしいものはやっぱりおかしい」ということが伝わります。ちょっと以前1990年代にテレビで人気があったイギリスの喜劇ドラマ「ミスター・ビーン」を見るような感じの場面もあります(YouTubeで見ることができます)。訳者の丸谷才一ウィキペディアによると「日本文学の暗い私小説風土を批判し、軽妙で知的な作品を書くことを目指した」そうですが、多分そういう思いでこの本の翻訳をされたのでしょう。多分難しい翻訳作業だったと思います。

 

最後に井上ひさしの解説があって、この本をどう読んだらよいかがよくわかります。「できれば、日曜の午後など、時間のたっぷりあるときに、傍らにウイスキーの瓶を置き、スコット・ジョップリンラグタイムでも聞きながら、文章を舐めるようにゆっくりと―。くどいようであるが、この小説を速読するのは損だ。読み手は、大河のように悠々と流れて行く訳文にたっぷりと浸し、身をまかせてほしい。」 旅と、英国風ユーモアと、地理と歴史に関心がある人に、のんびりゆっくりと、船旅を楽しむつもりで読んでみることをおすすめします。