わたしの水彩スケッチと読書の旅

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どうやって子どもは新型コロナウイルスを広げるのか? これは科学的にはまだ不明だ (How do children spread the coronavirus? The science still is’t clear, by Smriti Mallapaty, Nature 07 May 2020, doi:10.1038/d41586-020-01354-0 を読んで)

このパンデミックの初期から、コロナウイルス(COVID-19)の拡散における子供の役割については大きな疑問があった。今日、いくつかの国ではロックダウンが終わり学校が再開されようとしている。科学者はこの問題の解決を急いでいる。

 

COVID-19に感染した患者のうち、子供の割合はかなり少ない。中国、イタリア、米国では、18歳以下の患者数は全体の2%以下だ。しかし、研究者の間で、子供は大人に比べて感染しにくくウイルスを拡散させにくいかどうかについては、意見が割れている。何人かの研究者は、子供は大人に比べウイルス感染リスクが少ないことを示す証拠が増えていると述べている。この意見は学校再開の考えを支持する根拠となっている。

 

ドイツとデンマークではすでに学校が再開した。オーソとラリアやフランスのいくつかの地域では、これから徐々に再開する予定である。一方、急いで子供達が教室に戻ることに反対する研究者もいる。彼らは、子供が大人よりも感染が低い一つの理由は、多くの学校がこれまで閉鎖されていたので、子供達がウイルスにさらされてこなかったことにあると述べている。また、子供は症状が出にくいので、大人に比べてあまり検査がされてこなかったという事情もあるとも説明している。

 

香港大学の研究者は、子供は感染しないという生物学的疫学的証拠はどこにもない、と述べている。大人の中で感染が起きている地域では、学校再開は感染を促進することにつながるので、学校再開に際してはよい監視システムとよい検査システムの整備が必要であるとも述べている。

 

もし子供がウイルス拡散を促進させるなら、学校再開した国々では今後数週間の間にウイルス感染は急増するだろう。しかし、この議論に決着をつけるためには、大規模で精度の高い方法、例えば過去の感染のマーカーになる血液中の抗体の存在を調べるテスト(抗体試験)などを使った地域住民全体の研究が必要である。

 

他の研究者は、子供達の免疫反応を調べて、なぜ子供は大人よりも感染した時の症状が軽いのかを知ろうとしている。もしかしたら、それが強力な治療法の発見につながるかもしれない。

 

子供は大人より感染しやすいか?

 

中国深セン市の感染患者家族について行われた研究では、10歳以下の子供の感染は大人と同程度に起きたが、症状はずっと軽症だったことが明らかとなった。実はこの報告は怖いものである。なぜならこれは感染が静かに広がる可能性を示すからだ。しかし、他の韓国、イタリア、アイスランドでの研究では、子供の間では感染率が低いことが観察されている。中国の他の地域での研究でも子供達の感染が低いことが示された。

 

 

子供は感染させやすいか?

 

一旦感染した子供が、感染した大人と同程度に他人に感染させやすいかについては、更に不明な点が多い。フランスのアルプスでクラスター感染した9歳の子供の例では、感染後3つの学校とスキー学校に行っていたにもかかわらず他の誰にもうつさなかったという。オーストラリアのクイーンズランド大学の研究では、シンガポールでは子供が最初に家庭に感染を持ち込むケースは全体の8%にすぎないことが示された。しかし、この解析には多くの調査上の疑問が呈されている。他の呼吸器系の疾病のウイルスでは、大人と子供の間で相互に感染が起こる。COVID-19だけが例外というわけにはいかないだろう。実際、他の研究でCOVID-19に感染した子供は感染した大人と同じレベルのウイルスRNAをもつ可能性が示されている。これをうけて、現在の状況で無制限に学校と幼稚園を再開するのは反対だとベルリンの病院の研究者は話している。しかし一方、高いレベルのウイルスRNAがその人の感染力と関係があるかは不明だ、とイギリスのエジンバラ大学の研究者は述べている。

 

オーストラリアでの研究では、学校から社会へのCOVID-19の伝染は限られていてインフルエンザのような呼吸器疾患の場合に比べてずっと少ないと報告されている。それによると、サウルウエールズ州で感染した小中学校9人の生徒と9人の学校職員と接触した850人のうち、わずか2人の感染が確認されただけだという(2人とも子供)。これらの事実をもとに、子供達は学校へ戻るべきだと述べている。その場合、学校再開後にウイルス拡散の調査は必要である。オランダでは学校再開後のウイルスのモニターを丁寧に行う予定である。

 

子供の免疫反応

 

研究者の間では、子供は大人に比べて重症化しにくいという見解は一致している。しかし、少数の子供が重症化するケースがある。ロンドンとニューヨークでは感染した子供が川崎病に似た症状を示すことが報告されている。

 

また、子供の肺にはウイルスが細胞に侵入する際に必要な受容体タンパク質ACE2の成熟型が少ない可能性も指摘されている。しかし、このことを証明するためには子供の肺組織の検査が必要だが、それは現段階では容易ではない。

 

以上がこの報告の内容です。子供が大人に比べて新型コロナウイルスに感染しやすいか、しにくいか、また一旦感染した子供が他人に感染させる程度は感染した大人の場合に比べてどうか、まだはっきりとした結論は得られていないことがわかります。日本でも各地で学校が再開されます。学校で学校医や保健室を中心に注意深く対応していただき、生徒の間、あるいは先生と生徒の間の感染を防ぎ、生徒や先生を通してウイルスを家庭に持ち込まないことがとても大事です。この場合にも一般市民と同様に、やはりPCR検査の広範囲の実施により、感染者を見つけて隔離することが基本的に重要です。日本でなぜPCR検査体制が整わないのか、問題が指摘されて2,3ヶ月になるのに、改善されないのが本当に不思議です。日本の場合、今このような新型コロナウイルスの検査体制が十分にできない状態での学校再開となるのは、とても不安です。再開前後の学校の教職員の負担も大変です。地域が学校をサポートしたいのですが、感染予防でなかなか協力が難しい状況です。保育所から大学まで、子供、生徒、学生さん達が本当に気の毒です。新型コロナウイルス感染の第2波は今年の秋以降に必ずやってくると予想されています。むしろ第2波の影響の方が大きいと言う専門家もいます。しばらく時間を稼いで、地域の医療機関、学校そして家庭で、そのための準備をしっかりやる必要があります。

 

 

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