わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『迷いながら生きていく』(五木寛之著、PHP研究所)

2021年3月26日

 

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私が五木寛之さんの本に初めて出会ったのは、大学の教養部時代に、当時若者の間で流行していた『青年は荒野をめざす』を読んだ時でした。確かソ連とヨーロッパを一人旅しながら成長・自立していく青年を描いた青春小説だったと思います。あれからもう50年以上が過ぎて、五木さんももう90歳に手が届く年齢に。最近は新聞の連載などで、自分の人生論を語るエッセイを時々書かれています。たまたま家の本棚に義母が買って読み終わったこの本があったので読んでみました。90歳近くまで生きて、まだこうして元気で文章を発表できることが、私としてはとてもうらやましいのですが、さて現在どんな心境になっておられるのか、興味がありました。

 

第1章「新しい世界を迷いながらゆく」の中の文章を抜粋して引用します。

「私は今年で87歳になりました。人生百年時代を予測していたとはいえ、自分自身の超高齢期という日常はまさに未知の領域です。正直言って戸惑いも不安もあります。しかし、変わりゆく体も、変化し続ける世界も、『旅をするように』観察して楽しんだり、快適であるように工夫してみよう、と考え始めています。

 私が考える『旅』とは、ガイドがいるわけでもなく、地図も羅針盤もない、途中で死を迎えることもあるという、なかなか過酷な旅です。しかし、旅する時に感じるあのワクワクした気持ちや喜びがともに在るとするならば、それもまた悪くないと思えるのです」

 

著者は若い頃から旅人の心を持ち続けて、ここまで到達し、これから更に先の人生も旅人の心持ちで生きていきたいと述べています。第1章には、各年代で生きる上での心構えのようなものが書かれています。

 

第2章「『今』を生きるために」では、『逝き方』を考えることの意味が書かれています。特に私のような高齢者が読むべき部分かもしれません。どういう形で死を迎えるにしても自然の一部でありたい、という著者の願いが書かれています。宗教(特に仏教)に深い関心を寄せている著者の生き方・考え方を反映した文章です。人間も動物も植物もバクテリアも全て地球を構成する物質の一部で、最後は皆、土や空気や水に還っていくというのは、科学的真理です。

 

第3章「孤独と幸せの両立」。ここでは人間が孤独になることを勧めています。孤独は孤立ではないと前置きして、多くの人との交流の中で、自分自身の個性と独立をしっかり保つことの重要性を述べています。

 

第4章「変わりゆく自分を楽しむ」、第5章(最終章)「日々を少しだけ楽に生きる」は、五木さんの過去のエピソードや現在の健康状態等を紹介しながら、日々楽しんで生きる上でのアドバイスを書いています。著者は「死について考えたほうがいい」と言い続けてもう何十年と経つのですが、自分自身がどこまで死に対してリアリティを持っているかとなると、少々疑問がある --- 実のところ、「死の覚悟」ができているかと言えば、はなはだあやしい、と正直に述べています。

 

五木さんはかなりの高齢なのに、日本や世界の政治・経済情勢や科学テクノロジーの進歩をきちんとフォローしながら、自分の考えを熱心に発信しているところが素晴らしいです。なお、この本はどちらかというと高齢者向けの本だと思います。