わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『おら おらで ひとり いぐも』(若竹千佐子著、河出書房新社)

2021年7月18日

 

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70歳を越えた一人暮らしの女性の物語です。著者は1954年岩手県遠野市生れ。本作により、2017年第54回文藝賞をこれまでの受賞者の中での最年長63歳で受賞しました。

 

あとがきが無いので分かりませんが、本作はおそらく著者本人や自分の周りの身近な人達の経験をもとに書かれたのだと思います。作品中の東北弁がこころよく響き、読者を穏やかな心の世界に導きます。

 

24歳で故郷から東京へ出て、結婚、出産、育児、夫の死などを経験して50年。今は都市近郊の住み慣れた新興住宅で一人で生きる。亡き夫との心の中での対話や過去を回想する日々。そんな生活の中で、自分の心を支配するもの – 孤独 – について語ります。

 

私自身はこの本の主人公の桃子さんと同じ年齢層なので、彼女の気持ちを理解できる部分も多いのですが、一方で、この年代の人って(私も含めて)、もっと現実的にドライに生きているのではないかとも思ったりしました。特に桃子さんが、ここに書かれているように地球の46億年の歴史に興味を持ちノートに図書館で調べ上げた情報を書き入れていつも持っているような人だとすると、少なくとも命や人間が生きることの意味をかなり客観的に捉えることができる人なのではないか。そんな人なら普通はあるがままの現実を悩まず受け止める。しかし、一人暮らしになるとこんなふうに深く孤独になるのだろうか。周りに親しい友達はいないのか。近所の人との付き合いはないのか。子どもや親戚との関係はどうなっているのか。本文を読みながら、桃子さんを何とか助けてあげたくなります。

 

私の町内にも一人暮らしの人が何人かいます。私の友人にも奥さんに先立たれた人がいます。いわゆる「男やもめ」と言われる人は私の世代では意外と多いです。こういう人たちからは、「一日中、全く人と話すことがなくて寂しいよ」とよく聞かされます。

 

町内の掃除などの時によく雑談をした(もう数年前に亡くなられた)Kさんは、「友達が次々と亡くなるのが一番こたえる」と言っておられましたが、今自分もそれを実感する年齢になりました。お世話になった高校・大学の先生や親しかった同級生、そして身近な町内の人の訃報はこたえます。

老人の孤独は高齢者社会の大きな課題でしょうね。孤独感の軽減 — 地域活動や趣味の活動を行う意味はそこにあります。高齢者は若年層に比べて幸福度が高いと言われますが、そこにも貧困問題が影を落としているように見えます。経済的に恵まれた高齢者とそうでない高齢者で孤独の感じ方もかなり違うのではないか。こんなことなど、いろいろと考えさせられる本でした。