わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『比類なきジーヴス』(P・G・ウッドハウス著、森村たまき訳、国書刊行会)

2021年3月21日

 

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ユーモア小説を読みたくてもなかなかそのものズバリに行き当たらない私が、今回読んだ本がこの『比類なきジーヴス』です。タイトルがちょっと変わっています。どんな本だろうと手に取ると、イギリスユーモア小説の傑作であるとの評価が高いことが分かりました。著者のP・Gウッドハウス (Wodehouse) は1881年イギリス生まれ、1955年にアメリカに帰化、1975年死去。この作品はジーヴス・シリーズ全14巻の第1作目です。若くて失敗の多い主人バーディ、しっかり者の執事ジーヴス、バーディの学生時代からの友人でかなり間が抜けたビンゴ、バーディの伯母でお節介なアガサの間で織りなされる人間模様が面白く、読み進むうちにこの人達の交友が羨ましくさえなります。ストーリ―の背景にはイギリスの上流社会の生活があります。貴族社会や、オックスフォード・ケンブリッジ大学卒業生に代表される知的エリート層を揶揄した笑いが全体に満ちています。イギリスの社会にあまり馴染みのない日本人には、すんなりこのユーモアを楽しめない部分もあるかもしれません。

 

訳者の森村たまきさんの翻訳がとても優れています。文中では登場人物の会話が続くのですが、それぞれの人物の個性的な会話が生き生きと再現され、全体に読みやすく、話の流れを理解しやすくしています。本書は単純なユーモア小説というよりどちらかというと推理小説的な雰囲気もあり、筋を細かく追うことが要求されるので、訳者のなめらかな翻訳に助けられます。内容は18の小編からなっていて、それが全体につながって一つのストーリーになります。

 

「訳者あとがき — P・Gウッドハウス礼賛」の部分を一部引用します。

 

「多作で手軽なウッドハウスの読み物は、大学で講義される文学というよりは、『書評家に黙殺されながらも広く大衆に愛読されている本がたくさんございます』とジーヴスが言うほうの大衆文学に属するのだろうが、名だたる作家、文学者、哲学者は多くウッドハウスを愛読した。(中略)私はマニアでもコレクターでもないから、恥ずかしながら全著作はもとよりジーヴスものですら全作品を通読はしてはいない。とはいえ都合のいいことを言うようだが、ウッドハウスの作品というのは、一部が全部であって全部が一部であるような大いなるマンネリの世界だから、しゃかりきになって全巻読破するような性格のものでもないようにも思う。折にふれて手にとって楽しみ、読み終えて満足する、あるいは買ってみたら既読であったので重複してもっている、というような付き合い方もいいのではないか。」

 

このジーヴス・シリーズは、皇后(現上皇后美智子さまも愛読されているようで、そのお誕生日インタビューの内容が本の帯に書かれていました。また続けて第2巻以降も、ゆっくり楽しみながら読んでみたいと思います。