わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『時刻表2万キロ』(宮脇俊三著、河出文庫)

2020年9月22日

 

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鉄道ファンなら知らない人はいない、という宮脇俊三さんの本です。1980年6月初版、そして今年2020年6月22刷発行となっています。長い間、鉄道愛好者に読みつがれている本であることが分かります。

 

表紙を開くと、文庫本には珍しい口絵写真のページが4ページ。会津線鶴見線、興浜北線、日田彦山線を走る列車のレトロな写真が載っています。そして巻末には「国鉄全路線図」が三つ折りで折り込まれています。そうか、この本が出た1980年といえば、まだ国鉄民営化前で、JRではなかったんですね。

 

のどかな表紙カバーの絵につられて、のんびり本文を読み始めると、次第に抜き差しならぬ鉄道の旅に付き合わされることに気づきます。1975年(昭和50年)の南九州の旅で1万8千キロを越え、残り2千7百キロになった頃から、宮脇さんは国鉄全線完乗を目指そうと決意されたようです。そして、本文「第1章 神岡線富山港線氷見線越美北線」に始まり、「第13章 足尾線」まで、まるで何かに憑(つ)かれたような、怒涛の旅が続きます。

 

読み始めて最初の半分ぐらいまでの印象は、「とにかく忙しい」旅。時刻表とメモ帳とカメラを持って、周りの景色など余り眼に入らず、ただただ列車の接続だけに神経を集中する著者の姿が想像されて、緊張感が抜けません。私達の普通の旅でも、JRや私鉄の乗り換えでは、乗り換えるかなり前から乗り換え時間やホームなどのことが絶えず気になって落ち着きませんが、それが宮脇さんの旅では「乗車区間・キロ数・時間」とともに、始めから終わりまでずっと付きまとう感じで、読んでいて、正直かなり疲れます。

 

国鉄全線を全て乗り潰すために、飛行機、A寝台、グリーン車特急、長距離タクシーなど、その場の状況で使える交通手段を著者は全て使っていきます。このこだわりに、もうびっくりです。こんな旅にはちょっとついていけない、という感じで、途中何度も本を置きました。睡魔に襲われることも度々で、「この本、最後まで全部読めるのか」と心配しましたが、次第に宮脇さんのペースに慣れてくると、本の後半では「路線・距離・時間」など細かい記述はもう気にしない、とにかく読む、と心に決めてスイスイ流すように読みました。

 

宮脇さんの独特のユーモアがところどころの文章に生きていて、一緒に味わった旅の疲れが、やがて旅のよろこびに変わります。読み終わると、「長い旅を終えた」充足感みたいなものが感じられて、実に不思議な感覚です。この本、やっぱり名著なんだなあ、と思います。しかし、もう一冊、有名な『最長片道切符の旅』も続けて読む? と聞かれると、「ちょっと、ちょっと待って・・・!」という感じです。この宮脇さんの旅、かなり気合を入れないと付き合えそうにない・・・。それが私の本音です。でも、新型コロナが終わたら、早くローカル線に乗りたい、という気分はすごく高まりました。

 

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