わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「嬉しゅうて、そして・・・」(城山三郎著、文藝春秋)、「落日燃ゆ」(城山三郎著、新潮文庫)

2018年1月29日


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この数年、私の好きな作家が次々と亡くなり、とても寂しい気がします。城山三郎(1927-2007)もその一人です。「嬉しゅうて、そして・・・」には、I 私の履歴書II 政治とは、III経営とは、IV人間とは、という各章に、城山三郎の随筆が年代順に収められています。名古屋に生まれ、名古屋で育った少年時代。名古屋商業から海軍特別幹部練習生に志願し、そこで体験した海軍での生活。あこがれの海軍の現実。戦争末期の狂乱と終戦一橋大学時代。結婚、そして作家としてのスタート。そしてその後の作家活動。この本を読むと、この城山三郎という作家の生き方、考え方、そして日本の戦前、戦中、戦後を生きた一人の作家の人生と時代がとてもよく分かります。

 

代表作の「落日燃ゆ」。この本の主人公は、東京裁判で絞首刑を宣告された7人のA級戦犯の一人、広田弘毅(元首相、外相)です。裁判中、一切の弁明をしないで絞首刑を受け入れて死んでいった広田の姿を、戦前、戦中の日本の近代史の記述の中でリアルに描いています。城山三郎の文章を読んで、とにかく驚くのはその取材力です。いかにして日本が戦争にのめり込んで行ったのかが彼の文章力・取材力のお陰でとてもよく分かります。優れた外交官で、海外での経験が豊富だった広田弘毅。外交交渉に全力を傾けて、中国、ロシア、アメリカ、イギリスとの戦争を避けようと必死の努力をする広田ですが、軍部の圧力と中国大陸での陸軍の度重なる暴発で、次第に意図しない全面戦争に向かわざるを得なくなります。この「落日燃ゆ」を読むと、現在の日本の政治の状況が戦前の日本の政治状況と似てきていると言われる理由が理解できる気がします。「武力ではなく外交力で問題解決を」といつも誰でも願っているのですが、その状況の中で、意図的に、あるいは偶発的に起きてしまう戦争。なんとしても戦争は避けなければならないのに、なぜ人間は戦争に踏み出すのか。政治に翻弄される国民。戦前、戦中、戦後の日本政治の歴史を描いて、未来に「戦争の失敗」の教訓を伝えたい。この「落日燃ゆ」にはそのような城山三郎の強い思いが詰まっています。