わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

目に力 若き野心が 燃えたぎる (高知県高知市 高知県立牧野植物園)

2017年12月



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高知城はりまや橋でスケッチした後、バスで高知県立牧野植物園に行きました。牧野植物園は高知県出身の植物分類学牧野富太郎を記念して作られ、高知市の東部、五台山にあります。冬なので花が咲いている植物は少ないし、きっと入場者は少ないだろうと思っていたら、バスには若い人たちがかなり乗っていました。今日は日曜日で、比較的暖かい晴天の日なので、休みの日のデートコースにここを選んだカップルも多かったようです。広い園内に入ってみても、仲のよさそうな若いカップルがやたら目につきました。植物園をデートコースに選ぶなんて、なかなかいいセンスです。もし私が若かったら、私も多分「日曜市」の次ぐらいにこの植物園を選んだことでしょう。


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牧野富太郎は小学校中退ながら独学で植物について勉強し、東京帝国大学理学部植物学教室に出入り許され、そこで植物の分類に関する専門知識を蓄えました。東京帝国大学理学部の助手・講師として日本中を植物採集で回り、日本の植物分類研究の第一人者となった人です。高等教育を受けていないのにもかかわらず、並の大学教授に負けない程の植物の知識があって、この分野の学会の中心で活躍した、いわば伝説上の人物といえるかもしれません。若い頃の写真を見ると自信がみなぎった野心的な目をしています。実際に植物を分類的な視点から見るという点で他を寄せ付けない実力があったのでしょう。現在で言うと、建築家の安藤忠雄さんのような感じでしょうか。大学を出ていなくても経験の中から独自の建築設計の道を歩み、建築界で一流と認められて東大教授にまでなった安藤さんと何となくイメージが重なります。


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牧野富太郎が著した「牧野日本植物図鑑」は、植物分類の分野でバイブルとなるほどの本です。実は今は日本の大学では、植物分類学を研究している大学はごく限られていて、専門家も少ないと思います。しかし、一般の市民の中に植物愛好者が沢山いて、「牧野植物図鑑」の恩恵を受けています。分厚い図鑑の何ページに何の植物が載っているとすぐに言える人もいるぐらいです。牧野の仕事の基本は、牧野自身が墨を使って面相筆(めんそうふで)で描いた精緻な植物図です。牧野の絵を見ると、科学的正確さが最も大事にされているのがよく分かります。しかし、それだけではなく、絵の描き方に芸術的なセンスもあります。これは科学と芸術の融合の良い例と言えるかもしれません。線描にかけた牧野の仕事をもし超える描写をするとすれば、あとは色彩で勝負することぐらいでしょうか。例えば女性の人物画で有名な小磯良平は、確か製薬会社の依頼で、水彩で植物画も描いています。小磯の植物画は画家の描く植物画です。リアルな描写に加えてその繊細で美しい色彩はみごとです。


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実は私も「牧野日本植物図鑑」を長い間持っていましたが、退職時に本を整理する時に手放してしまいました。その時、何の未練も感じなかったので、やはり私には牧野のような植物に対する執着が無いのだとその時実感しました。こればかりは生まれつきなので仕方がありません。ハッキリ言って私の中には植物分類に情熱をたぎらせる遺伝子がなかったのでしょう。その代わり、植物をきれいに描きたいという気持ちは、少しはあります。かつては私もペン画で植物の細密描写をしていましたが、最近はもうその気力はありません。今はもっぱら風景画を描いているので、「植物はマッスで描け」とどこかの絵の先生に教わったそのままを実践しています。つまり、木も花もすべて塊として描きます。年齢を重ねるとますますこの「易きにつく」傾向が強くなります。歳は取りたくないですね。


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牧野植物園は展示施設が充実し、また屋外の植物園もすばらしいです。高知に来たら是非一度は訪れたい場所です。