わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 「10代の本棚 こんな本に出会いたい」 (あさのあつこ編著、岩波ジュニア新書)

2017年6月17日
 
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地域の人に頼まれて、今週から地元の小学校の6年生の総合授業に教育支援者として加わることになりました。幾つかのグループがあって、そのうち私が担当するのは「学校新聞づくり」。子供たちが作る新聞に大人の立場からアドバイスを与えるのが仕事です。私の小学生時代の夢は、考えてみると余りはっきりしていなかったのですが、あえて言えば1に科学者になること、2に絵描きになることだったと思います。1番目の夢は大学で勉強することで一応かない、結局その後40年余り研究者として生活することになりました。2番目の大きな夢も、退職後にゼロから出発して、現在少しずつ実現しつつあります。最近、もし生まれ変われるなら次は新聞記者になりたい、と思っていたのですが、今回それが思わぬ形で実現することになりました。小学校新聞の「記者」になったからです。
 
新聞記者に求められるのは取材力と文章力です。取材力はとにかく現場を歩き回ってネタをさがし、調べ上げることで身につきます。そして文章力の方は、日頃から文章を書き、本を読むことで鍛えられます。子供たちにこのことを伝えようと思っているのですが、さて子供時代にどんな本をすすめたらいいのか、参考にこの「10代の本棚 こんな本に出会いたい」を読んでみました。
 
岡山県在住の作家、あさのあつこさんが編集し、比較的若い作家、文学者、ジャーナリストなど13人が、自分達が10代に出会った本について、とてもわかりやすくそして読者(ジュニア新書なので10代の青少年が多いでしょう)にやさしくアドバイスして励ます内容で書かれています。どの文章もとても興味深く全世代向きの本です。本好きの人なら自分の10代を振り返ってつい比べてしまうのではないでしょうか。多くの人が挙げている「十五少年漂流記」。私も感動して読みました。「赤毛のアン」は女の子の読む本だと思って私は読んでいなかったのですが、実は男の子にも大人気なんですね。「影との戦いゲド戦記I」。そんなに面白いんですか。今からでも読んでみたいです。「新・平家物語」、「鞍馬天狗」、「新撰組血風録」。また読んでみます。「メアリー・ポピンズ」、「ムーミン」。有名なのにこれまで読んでこなかったなあ。今からでも遅くない、読んでみようと思わせるこんな10代向きの本が目白押しです。
 
あえてこの本の欠点をあげるとすれば、理系の人の登場が少ないということです。私たちの子供時代は、将来理系を目指す子供が多く、私の通った高校でも7割が理系で、文系は残り3割でした。男子は圧倒的に理系志望が多い時代でした。
 
さて私の場合を振り返ってみると、10代の小学生の頃、小学校の図書室で本を借りて読んだ記憶が全くありません。私は小学校を3つ転校しましたが、どの小学校も古い木造校舎で今にも倒れそうな建物でした。終戦後で地方は特に貧しく、学校に図書室がまともになかったのだと思います。そんな中で、4年生の時、町内に小規模な巡回図書室が設けられ、そこで見た少年少女世界文学全集はとても面白く、次々と借りて読みました。あさのあつこさんが小学校の図書室でずらりと並んでこわかったという江戸川乱歩の「怪人二十面相」シリーズもとてもおもしろかった記憶があります。家には父が買った吉川英治の「宮本武蔵」、「私本太平記」、山岡荘八の「徳川家康」などの時代物シリーズ、そして当時どの家庭でも競って揃えた日本文学全集や百科事典がありましたが、まだ子供には読めませんでした。そして子供から大人へのステップとして誰でも経験する「文庫本」への挑戦。私の場合は、祖父の家に遊びに行った時に当時大学生だった叔父が本箱に置いていた山本有三の「真実一路」、そして「路傍の石」との出会いがそれでした。そして小学校4年生の時に「少年サンデー」と「少年マガジン」が相次いで創刊。当時から「少年画報」や「ぼくら」などのマンガ雑誌は少年に大人気でしたが、私の家では親がマンガ雑誌を買うことを許さなかったので、私の少年時代はマンガとはほぼ無縁でした。しかし、なぜか「少年サンデー」と「少年マガジン」の創刊号だけは買ってもOKと親の許可が出ました。当時この2つの雑誌はマンガ雑誌というより教育雑誌的雰囲気が強かったせいでしょう。
 
私は小学校高学年で人並みに文学に影響され始めましたが、それよりさらに影響を受けたのが、誠文堂新光社が出していた月刊誌の「子供の科学」でした。小学校4年で他県から転校してきたK君がこの雑誌を読んでいたのに刺激され、結局私も2年間読み続けました。中身はとても難しくてよくわからなかったのですが、この雑誌の影響で電池とモーターを使った模型作りにとても関心を持ちました。本当はレールの上を走る模型の電車が欲しかったのですが、父親がサラリーマンのわが家の経済状態ではとても買ってはもらえませんでした。「驚異の原子力」という本もK君から借りて読みました。その時初めて驚異という言葉と原子力という言葉を知りました。薬局に勤めていた伯父に頼んで、試験管やフラスコやビーカー、それにアルコールランプなどを買ってもらったのもその頃でした。当時はガラスが低品質ですぐに壊れてしまい、使わない内に皆すぐに不燃ゴミになってしまいましたが。
 
中学校と高校時代は受験勉強のせいで教科書と参考書以外の読書はほとんど無し。今振り返ると実にもったいない6年間でした。その反動で大学に入ってかなり猛烈にいろいろな本を乱読しました。理学部に入学したのに、専門の勉強はそっちのけで文学と社会科学の本に浸っていたと思います。朝日新聞社発行の週刊誌「朝日ジャーナル」(現在は廃刊)は当時の進歩的学生の理論的バイブルのような存在でしたが、それを時々買っては赤鉛筆で線を引いて精読しました。そのお陰で物事をきちんと理屈を通して考えるトレーニングができたと思います。そして19歳の時に、今考えると決定的な本との出会いがありました。「Phages and the Origins of Molecular Biology(ファージと分子生物学の起源)。これは生物学の専門書ですが、この本と出会うことによって、私は文学と社会科学からしばらく別れることを決め、自分の専門である生物学へと大きく舵を切りました。
 
本との出会いが人生を大きく左右することがある、というのは、これは本当だと思います。その意味でも、小学生の頃からよい本に触れるのはとても大事です。