わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『池澤夏樹の世界文学ワンダーランド』(池澤夏樹著、NHK出版)

2021年9月2日

 

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読みたい本を探す時、私はたいてい新聞の書評欄を見ます。定期的に2種類の新聞の書評欄を切り抜いてノートに貼り、あとで見返してまだ読みたい気持ちが強ければ、次はインターネットの読者評を見て、評価が高そうなら購入します。しかし、こうして買ってはみたものの、最初の数ページを読んだだけでそのまま本棚に収まっている本もたくさんあります。

 

最近は電子書籍で本を読む機会が増えました。ワンクリックですぐに欲しい本が買えるという便利さ・手軽さがあります。また、高齢になって字が読みにくい人には、字の拡大ができるこの電子書籍は助かります。一方、従来の紙の本の良いところは、本の装丁を含め何から何まで本を丸ごと自分の目で確かめられること。そしてページをめくり印刷の匂いを嗅ぎながら本を味わえることです。

 

自室の本棚に並んだ多くの本の背表紙は、読書欲をそそるよい刺激になります。ぼーと本棚を眺めているうちに、昔買ってそのままにしていた本が「読んで!」と声をかけてきます。今日読んだ『池澤夏樹の世界文学ワンダーランド』もそんな本です。2009年10—11月のNHK教育テレビNHK知る楽 探求この世界』のテキストです。

 

ちょうどこのテキストが出版された頃、『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』(河出書房新社)が世に出て評判を呼びました。このテキストの冒頭に「『世界の文学全集』から『世界文学の全集』へと時代は変わった。そこにはもう、ゲーテも、サタンダールも、トルストイもいない。二十世紀後半を中心とした、新たな『世界文学』の作家たちを見る」という著者の文章があります。

 

ここで紹介されているのは、『マイトレイ』(ミルチャ・エリアーデ著)、『サルガッソーの広い海』(ジーン・リース著)、『フライデーあるいは太平洋の冥界』(ミシェル・トウルニエ著)、『戦争の悲しみ』(バオ・ニン著)、『老いぼれグリンコ』(カルロス・フェンテス著)、『クーデタ』(ジョン・アップダイク著)、『アメリカの鳥』(メアリー・マッカーシー著)の7作品です。

 

第二次大戦後のアメリカの繁栄とその後のベトナム戦争の経験などを時代背景にした作品が取り上げられています。しかし、その頃からもうすでに10年以上の年月が過ぎて、湾岸戦争、9.11アメリ同時多発テロ、アフガンの戦争、トランプ政権の出現と交代などを通してアメリカだけをとっても情勢は大きく変化しました。そして中国やインドの台頭とそれに伴う世界の変化も激しさを増しています。世界の人口爆発地球温暖化、そして最近のコロナ・パンデミック。そんな激動の世の中で今新しい世界文学はどうなっていくのか、気になります。

 

フィクションもノンフィクションも、その書かれた時代を色濃く反映しています。今を生きる私達は、過去をしっかり学びながらも、現在の新しい流れを追いかけていくことも大事です。新聞やネットの書評欄は、今読むべき本を示してくれる大事な羅針盤の役割を果たしてくれます。そしてこの『池澤夏樹の世界文学ワンダーランド』のような解説本も、その時代時代を反映した作品を紹介して、多くの読者の役に立ちます。