わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか?  「まちづくりと景観」(田村 明著、岩波新書)

2017年1月31日


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海外からの観光客が激増する中で、日本の都市や田舎の景観が話題として取り上げられることが多くなりました。外国の観光客は、日本の田舎の風景や伝統的な古い町並みに対しては手放しで賞賛の言葉をくれますが、一方で全く規制のないかたちで乱雑に広がる都市部の住宅地や計画性もなく乱立する高層建築、けばけばしい商業看板やのぼりの並ぶ街の通りにはっきりと批判的な目を向けます。確かに、例えば欧米各国に出かけて日本に帰ってくると、飛行機から見えるとても奇麗とは言えない日本の街を見てがっくり来るときがあります。日本に昔からある美しい景観を保つにはどうしたらいいのだろうか、そして都市開発によってあたらしく出現する景観をどのように美しくしていったらいいのだろうか。私の場合、この事はずっと以前から頭のなかにありましたが、自分の力ではどうにもできないこととして諦め、ほとんど成り行きに任せてきました。しかし、本当に美しい景観を実現しようとするなら、多分政府や地方行政に任せてじっと待っていたのではだめなのでしょう。この本では、住民である自分達自身がプランを立ててそれを実行に移さなければ何も出来ないことを、多くの事例を示しながら論理的に説明してくれています。

 

著者の田村 明氏は大学の工学部建築学科と法学部の両方で学んだ人で、都市政策の現場と大学での教育職の経験から、自分の足で歩いた世界中の具体的な都市や町の例をあげて都市や町の景観の重要性を分かりやすく説いています。

 

序章 「都市景観への取り組み」では、長野県長野市の近くに位置する小布施町(おぶせまち)が、葛飾北斎ゆかりの土地という歴史的なメリットを生かして「北斎館」を作り、それを中心にまちづくりをした経験が書かれています。周りの環境や隣家との関係を考えながら住民自身が協力しながら少しずつ景観を作っていく作業は大変興味深いものがあります。

 

第1章「美しい景観とは」では、日本の風景は基本的に美しいというところから入っていって、都市景観保全の近代史、世界の美しい街の景観つくり、目指すべき景観の姿などが書かれています。

 

その後、第2章から第9章まで、各章の論点に合わせて著者の見てきた世界の街の姿が紹介されます。そして最終章の最後の文章で、著者の思いがピークに達します。

 

「どの都市も、そこで精一杯生きてきた人々の思いが重なり合って現在の姿がつくられている。たび重なる悲しい思い出もあっただろう。戦争、内戦、自然災害、火災、占領、疫病などを体験しない都市はない。だが、また愉しい思い出もあったはずだ。独立、戦争の終わり、町の復興、家族と楽しむ愉しい平和な日々の事。そういうものが、ココロとなり魂になって、語っているのが都市の景観である。美しい都市景観は、人間らしく生き生きと、誇りをもっていきてゆくためのものである。」

 

この本を読んでいて、私も「その通りだ」と思わず声に出そうな箇所が沢山ありました。当然のことですが、旅で訪れた場所については、その地域の成り立ちの歴史的な背景をできるだけ頭にいれて観光をする必要があります。そしてそこに住んでいる人の土地への思いも感じ取る必要があります。日本の美しい風景や景観をスケッチしている者として、自分の見方・考え方を整理し、景観についての新たな視点を学び、景観保全に踏み出すために好適な一冊だと思います。