わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『ボローニャ紀行』(井上ひさし著、文芸春秋)

2021年2月14日

 

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ボローニャ。イタリア北部の人口約39万人の古い街で、ヨーロッパで最古の大学であるボローニャ大学がある街として有名です。著者は2003年12月の初旬にこの地を訪れて、この『ボローニャ紀行』を書きました。

 

読み始めるまでは、ボローニャの楽しい紀行文だろうと思っていました。しかし実際は、都市の理想のありかたを語るもっと奥深い内容でした。このイタリアの自治都市ボローニャから、日本人である私達が学ぶことがいかに多いか、が本書からよくわかります。

 

私も十数年前に初めてイタリアを一人旅した時に、ミラノからピサ、フィレンツェ、そしてボローニャに行ったことがあります。有名なボローニャ大学は是非この目で見たいと思ってでかけましたが、街の通りと大学の建物が混然としていて、どこが大学でどこが街なのか区別がつきませんでした。ヨーロッパの大学はそういう場合が多いです。ボローニャ観光の定番で、街の中央の広場に立つアッシネッリ家の塔に登って、中世から続く街の風景をながめました。ボローニャの街の通りにある柱・屋根付きの歩道(柱廊)もこの街独特のもので印象的でした。イタリアの印象は、とにかく古い街の保存が素晴らしい! どこでも市民が情熱をもって町並みの保存に取り組んでいます。また、農業・牧畜・林業と自然環境の調和が非常にうまく取れていて田舎の景色が美しい。田舎の景観の美しさはヨーロッパ中どこでも言えることですが、特にイタリアは見事です。都市や田舎のどこへ行っても「絵になる」風景だらけという実にうらやましい状態です。

 

井上ひさしは、自身の生い立ちや体験からボローニャに深いつながりを感じ、30年もこの街のことを調べあげ、ようやくそのあこがれの街を訪れて、街のあり方を深く考察します。彼の思想や歴史感、芸術や文学への思いが全てこの街の姿を通して語られる。これはボローニャを巡る井上ひさしの深い思索の旅です。

 

旅好きの読者からすると、本書のはじめに、イタリア全図やボローニャの地図が欲しいところです。作家の意地で文章一本ですべて説明したいのかもしれませんが、何枚か写真も入るとよかったのではないかと思います。