わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか?  『ヴェネツィアの宿』(須賀敦子著、文春文庫)

2020年4月13日

 

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世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が進んでいます。イタリアでは最初の中国に続いて2番めに感染爆発が起こり、4月12日現在で感染者数15万人、死者2万人に達しました。私はイタリアヘはもう20年ぐらい前に一度だけミラノ、ピサ、ボローニャ、そしてフィレンツエを2週間ほど一人で旅行したことがあります。その時に見たイタリア各地の素晴らしい歴史的町並みや楽しかった思い出が今回の新型コロナウイルスの感染拡大と重なってきます。テレビでイタリアのひどい状況を見ると、あの時ピサやフィレンツエで出会った人たちは今回無事でいるだろうかと心配になりますが、こればかりはじっと見守るしかありません。今は世界中で感染拡大が恐ろしい速度で進み、これが日本にとっても決して他人事でないことは最近の日本の各都市の感染状況を見ても明らかです。

 

イタリアに深く関わる作家の一人に須賀敦子さんがいます。彼女の作品は私の本箱に文庫本として何冊かあって、時々気が向いた時に、好きな本を取り出して好きなところを読みます。特に、地震や大雨や、最近の新型コロナウイルス感染のような人類の力ではどうしようもない自然の圧倒的な力の影響を受けた時には、不思議なことに小説や絵や音楽が疲れた心を支え、修復してくれる力になることがあります。

 

須賀さんは1929年生まれ。聖心女子大文学部卒のクリスチャン(カトリック教徒)で、戦後しばらくたった1953年にフランスのパリへ、続いて1958年にイタリアに留学し、イタリア人男性と結婚しました。ミラノの大聖堂に近いコルシア書店での夫や仲間の人たちとの生活を描いた『ミラノ霧の風景』が彼女の最初の作品で、講談社エッセイ賞と女流文学賞受賞。この本は1990年発表で、須賀さんはその時すでに61歳でした。この本の作品には、結婚5年半で死別した夫のペッピーノさんを含めて全体に親しい人の死がテーマにあるような気がして、やや暗めの雰囲気もあって、私は最初あまり好きにはなれなかったのですが、そのうちイタリアの風景や雰囲気の描写、イタリア人の生活の描写を思い出して何度も読み返すようになりました。

 

ヴェネツィアの宿』は、須賀さんの自伝的作品で、日本、イタリア、フランスでの著者の生活やその他の旅の様子が時代の流れに沿って生き生きと描かれています。どうしてこんなに当時のことが詳細に書けるのか不思議なぐらい情景・状況の描写がリアルで、しかもその文章がすばらしい。そしてその中で人物描写がさらにすごい。彼女は人間の個人個人に並外れた関心があるのがわかります。作品にはヨーロッパ紀行的な要素もふんだんにあって、同じ紀行文を書いている(しかし全然へたですが)私にとっても参考になります。どんな時代に書かれたものでも、いいものは時代を超えて魅力を放ちます。「うーん、うまいなあ・・・」と感心しながら読み進むうちに、しばし新型コロナのことも頭を離れます。須賀さんは1998年、69歳で亡くなりました。

 

この新型コロナ、すぐには終息しないとは思いますが、またいつか何の心配もなくイタリアに行って、町をスケッチし、ついでに紀行文が書けるようになればいいなと切に思います。