わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『アメリカ素描』(司馬遼太郎著、新潮文庫)

2021年2月20日

 

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平成元年発行ですから、もう約30年前の、ひと昔もふた昔も前のアメリ旅行記です。この本は紀行文というよりアメリカの歴史・文化論的な内容です。どんどん急速に姿を変える現代アメリカを知りたい読者にとっては、内容が古臭くて満足できないかもしれませんが、司馬さんの歴史感・世界観が訪問当時のアメリカを巡って語られ、さすがに事前の勉強量や現場での取材力がすごい、と感銘を受けます。

 

全体は第1部と第2部に分かれています。第1部はロスアンゼルスなど西海岸、第2部はニューヨークなど東海岸です。第1部の書き始めを以下に引用します。

 

「このことは、私なりに決意が要った。新聞社にたのまれたあと、ずいぶん迷った。曲折もしたあげく、結局はゆくことにした。ビジネスマンからみれば笑われるかもしれないが、このことというのは、たかがアメリカへゆくことなのである。

 それまでかたくなに、自分にとってわけのわからぬ国にやみくもに出かけるべきではない、と自分に言いきかせてきた。

 私にとってわかる気がするのは、古い時期に中国文明の影響をうけたくにぐにだけである。」

 

司馬さんはずいぶん迷った結果、2度にわたってアメリカを旅します。前後合わせて40日ほどの旅で経験したことや感じたことを、比較的長いエッセイにまとめ、新聞誌上に連載しました。

 

私にとって特に興味深かったのは、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボストンなどの東部諸都市の成り立ちを巡る歴史的な記述です。清教徒移住の歴史的背景などの解説は、当然のことながら今読んでも全く古びていなくて、非常に興味を引くものです。アメリカが時代とともに劇的に変化していて、それは今も続いていることを実感します。最近の中国やインドの台頭に伴うアメリカの相対的地位の低下もよく話題になりますが、そんな世界情勢の変化も、この本で語られるアメリカの歴史を知っておくと、一層わかりやすいでしょう。

 

今はアメリカだけでなく、世界中が激変しています。特に新型コロナの流行でその変化に拍車がかかっています。日本の変化も急です。人口減少、高齢化、産業構造の変化など社会を巡る変化が急速です。都会も田舎もその姿が大きく様変わりしています。あと10年、20年、30年後のアメリカ、そして日本、そして中国、アジア諸国、欧州・・・。日々のニュースから目が離せません。