わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「三つの石で地球がわかる」 (藤岡換太郎著、講談社ブルーバックス)

2018年8月15日


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今年7月の西日本豪雨災害では、中国・四国地方、特に広島県愛媛県の山が土砂崩れを起こして、犠牲者が多数でました。テレビのニュースによると、この地域の山には花崗岩が多く、その花崗岩の山肌が崩れて、大きな岩と一緒に「まさ」とよばれる細かい砂が大量に川を下って下流の村や町を襲ったようです。2014年8月の広島市豪雨土砂災害でも広島市北部の安佐北区安佐南区で同じような山崩れや地すべりがあり、住民に多数の死者がでました。このような土砂崩れの原因となった花崗岩についてもう少し勉強したいと思い、この本を読んでみました。
 
本の最初のページの「はじめに」から、著者の藤岡さんのペースにはまります。世の中、石や岩がつく名前が多い。石井さん、石川さん、石原さん、岩井さん、岩崎さん、岩橋さん。なるほど、そう言われてみればそうです。うちの町内にも沢山おられます。藤岡さんは小学生の頃から道端の石を拾っては家に持ち帰り、図鑑で調べていたそうです。そんな石好きが高じた結果、自分は岩石学者になってしまった、と書かれています。うーん、確かに私が子供の頃にもこんな変わった子がいたなあ。机の上にいっぱい集めた石をならべたりして・・・。人生、ちょっとしたきっかけで何でも始まるんですね。以下、「はじめに」の文章の一部を引用します。
 
 『(岩石や鉱物の種類は多いのですが)三つの石を覚えるだけで、石というものの本質がわかります。たくさんあるほかの石のことも、体系的に頭に入ります。さらには、石がどう変化したかがわかります。生き物のように石も長い年月をかけて進化しているのです。
 そして、石の進化とはすなわち、石によってできている地球の進化でもあります。地球が現在の姿になるまでに進化してきた歴史は、三つの石の物語でできているのです。』
 
 この三つの石とは、「橄欖岩(かんらんがん)」、「玄武岩(げんぶがん)」、「花崗岩(かこうがん)」です。どの石も高校の地学の時間に一度習った気がします。石の名前の漢字、特に「橄欖岩」はとても難しいです。「橄欖」とは著者によれば植物のオリーブのことだそうで、この岩は変質していないものは鮮やかな緑色だそうです。「玄武岩」は兵庫県豊岡市玄武洞にちなんだ名前で、色は黒。ちなみに玄武洞城崎温泉の近くです。そして今私が関心がある「花崗岩」は白っぽい石。
 
 この三つの石がどこにあるかを知ると、とても面白い! 地球の半径は6,380km。地球を半熟のゆで卵に例えると、卵の殻に当たる部分が「地殻」で、表層のわずか70kmの部分です。その下の70kmから2,900kmまでが「マントル」で卵の白身に当たります。この部分は個体ですが非常に長い時間スケールで見ると液体のような振る舞いをしています。そして中心部には外核内核があります。卵でいえば黄身の部分です。核は主に鉄で出来ています。
 
 まず橄欖岩ですが、この石は地球全体の体積の82.3%を占め、ほとんどが地中の奥深くのマントルの中に存在します。しかし、地表に現れた橄欖岩もあり、日本では限られた場所で見つかっています。私の住んでいる岡山県では、落合・北房地区で見られます。マントルはマグマのもとになるので、真っ赤に溶けた溶岩のイメージがありますが、実際は美しい宝石のような緑の石が詰まった世界かもしれないと、著者の藤岡さんは書いています。マントルは基本は固体なので、これは本当にそうかもしれません。人類がこれまで掘った一番深い穴は、ロシアで核廃棄物(プルトニウム)を保管するために掘った約13kmの穴だそうで、地殻の70kmを突き抜けるにはまだまだ距離があります。いつか地殻を突き抜ける穴が掘れれば、下のマントルの色を直接確かめることができます!
 
 次に玄武岩です。これは橄欖岩のいわば子供です。マントルが部分的に溶けて火山活動で地表に出たものが急速に冷えて固まったものです。このような石を火山岩といいます。玄武岩は地球全体積の1.62%。この石が面白いのは、何と世界の海の海底を広く薄く覆っていることです。海底火山から活発に噴出するマグマが地球の海洋の地殻を形成しているのです。海の底は黒い!それは玄武岩があるから。玄武岩マグマは地上にも出ていて、ハワイのキラウエア火山は30年以上も玄武岩マグマを流し続けています。ちなみに我が日本の富士山も玄武岩の山です。富士山は玄武岩10万年も吐き出し続けた結果できた山だそうです!
 
 そして最後にいよいよ花崗岩です。花崗岩は「大陸を作る白い石」と本文中で書かれています。地球の全体積に占める割合は0.68%。地中のマグマがゆっくり冷えると深成岩といわれる石になります。花崗岩は深成岩の仲間です。しかし、花崗岩のでき方には不明な点が多く、他にもいろいろな可能性があるようです。花崗岩は関西や中国地方に多く見られます。土色というと、関東では富士山や箱根の玄武岩質火山灰(関東ローム層)の黒色、関西では花崗岩の風化した白い「まさ」の砂の色だそうです。花崗岩は人間に利用されやすい石で、お城の石垣も花崗岩、お墓の石も花崗岩、石橋も花崗岩、石の地蔵さんもみな花崗岩です。花崗岩は風化していくとやがて崩れてしまいます。これらの石の建造物も、長い年月のうちにいずれ元の形を保てなくなり、姿を消すのかもしれません。「すべてが、はかなく移ろいゆく」という日本人のもつ美意識や世界観にぴったり合う石と言えるかもしれませんね。
 
 というわけで、私が住む中国地方の中国山地や関西の六甲山系では風化しやすい花崗岩が主に山を作っています。日本列島ができた歴史をみると、この中国山地あたりは真っ先に列島の核として存在していたようです。それと関係するのか、地殻は変動が少なく日本で最も安定した場所の一つです。しかし、雨風に打たれて、そのたびに土石が流出し、やがて遠い将来には中国山地は山としての形をなさなくなるのかもしれません。今回の災害を機会に、日本列島の未来を考えてみるのも大事なことだと思います。この石の本、わかりやすくて私達を「岩石と地球」の世界にぐんぐん引き込んでくれます。