こんな本読んだことありますか? 「竜馬がゆく」 (全8巻) (司馬遼太郎著、文春文庫)
2019年1月8日
“国民的作家”とよばれる司馬遼太郎が書いた“国民的作品”「竜馬がゆく」を読みました。全8巻を読むのに、年末から正月にかけて約2週間かかりました。「竜馬が行く」を読むきっかけになったのは、昨年12月の初旬にグループのスケッチ旅行で京都・伏見を訪れ、竜馬ゆかりの寺田屋や鳥羽伏見の戦いの古戦場を見たことでした。古戦場といっても、つい150年前の戦いの現場です。
江戸幕府が倒れ、1868年の明治維新にいたる激動の日本近代史の夜明けの時代を、坂本龍馬の活躍を中心に描いた歴史小説がこの「竜馬がゆく」です。まず何より著者である司馬遼太郎の筆力に感心させられます。時代資料を丹念に調べ上げ、現場を一つ一つたずねて自分の目で歴史的事実とその土地の雰囲気を確認し、壮大な歴史文学の構想を練り上げ、登場人物の会話を含めて、今現在その歴史的瞬間を見ているようなリアルな筆致で読者に歴史の流れを伝えていく。まさに圧倒的迫力の作品です。
この本を読むと、アメリカの黒船来航に始まる幕末の動乱期に実に多くの若い人たちが犠牲になる中で、事態が刻々と一つの方向に動いていたことがよくわかります。坂本龍馬は土佐藩の下級郷士の生まれですが、剣術に優れ、江戸に出て勤王の志士として次第に体制(江戸幕府)転換の動きに加わり始めます。竜馬は、厳しい階級社会であった当時の土佐藩の武士階級へ大きな不満をもち、脱藩という犯罪を犯して浪人の身となりますが、その後、優れた多くの人物と出会い、社会的経験を積むことで、独自の思想形成・人間形成を進めます。特に幕府の要職にある勝海舟との運命的出会いが、坂本龍馬を当時としては稀有な国際的感覚をもつ志士に育て上げます。
以降の坂本龍馬の活躍は、「よく一浪人の身でこんな大きなことがやれたなあ」、「竜馬は何とエネルギッシュな人間なんだ」と読者を驚嘆させます。まさに奇跡の生涯です。自分の船を手に入れ、海援隊を組織し、薩摩・長州の軍事同盟を実現させ、大政奉還の準備を進める。多分、現代の政治家の中にも、この本を読んで刺激を受けて政治家になった人も多いでしょう。若者の政治的無関心が言われている現在なので、今、若い世代の人たちがこの本を読む価値は大きいと思います。また、この本には、京都市中、伏見、江戸、東海道、高知、長崎、下関、山口、瀬戸内各地など、竜馬が歩き、活躍した場所の様子が随所に書かれています。一度でもそこをたずねたことがあると、とても懐かしい気持ちになります。それと同時に、もう一度あらためて坂本龍馬の足跡を訪ねる旅に出たくなります。時間を見つけて、時代を振り返り、現代と未来の日本を考える旅に出るのもいいかもしれません。
「竜馬がゆく」は産経新聞の夕刊に昭和37年6月から41年の5月まで1335回にわたって連載されました。それにしても司馬遼太郎という人はすごい。私は司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズの愛読者ですが、歴史考察・人物考察の徹底ぶりには脱帽させられます。それが「竜馬がゆく」にもいたる所に現れています。司馬遼太郎は間違いなく我が国第一級の歴史作家です。