わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「お米は生きている」(富山和子著、講談社)

2016年1月5日

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この本はやや古く、1995年出版の自然と人間シリーズの内の1冊です。小学校の中級から上の児童向きに書かれた入門書で、そのため漢字には残らずルビが振ってあります。挿絵もマンガ的でかわいらしいです。このような子供向けの本なのですが、内容は現在読んでも全く新しさを失わず、しかも大人が読んでも十分満足できるものです。著者の宮山和子(とみやまかずこ)さんは群馬県生まれで早稲田大学文学部卒業の評論家。「日本の米」(中公新書)など主に日本の稲作と日本の文化や環境を論じた本を幾つか書かれています。
 
最近のTPP(環太平洋経済連携協定)交渉のニュースで、日本の農業がこれからどうなるのかと心配する農家の人たちがテレビや新聞に大勢出てきました。日本の農業はただでさえ危機的状況なのに、このTPPによってもう壊滅的な打撃を受けるのではないかと人々は心配しています。
 
日本の農業の中心はもちろん稲作です。関税引き下げ、あるいは撤廃によって安い海外の米が日本に輸入されると、日本の稲作は大きな打撃を受ける可能性があります。そして最近の地球温暖化に伴う異常気象で、米の生産が今後安定的に保てない可能性もでてきました。そんな状況のなかで、米作りが日本固有の文化と生活と美しい風景を作ってきたと主張するこの著者の20年前の言葉が、一段と胸に響きます。そして20年後の今日、稲作をはじめとする農業への危機感は、周辺の事態の変化(政治・経済・自然環境・異常気象など)でさらに増幅されています。
 
農業の今一番の危機は、後継者が減っていることでしょう。若い人の意見を聞いても、農業を積極的にやりたいと答える人はごく僅かです。労働が厳しい、収入が少なく安定しない、農産物の販売で収益を上げるのが難しい、農業をするにしても土地や農機具への初期投資能力がない、深い経験を要する農業技術を習得するのが難しい、など農業をやりたがらない理由は沢山あります。私など、「里山の美しい風景を水彩画に描くことで日本の農業の大切さを訴えたい」と勝手に思っているのですが、そんな甘っちょろい考えを簡単に吹き飛ばすぐらい、今の農業は危機的状況にあるのかもしれません。米作りを放棄して「グローバル化」の波に飲まれることが、日本の将来(食糧問題・環境問題や日本文化)にどんな結果をもたらすのか、この子供向けの本「お米は生きている」は、私たちにそのことを強く問いかけているような気がしました。