わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか?  「未来をつくる図書館 ―ニューヨークからの報告―」(菅谷明子著、岩波新書)

2017年1月24日


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ニューヨーク公共図書館(The New YorkPublic Library)を取り上げて、この図書館をよく知るジャーナリストの著者が「図書館の未来の姿」を熱く語る本です。出版が2003年と、10年以上前なので、中に載っているパソコンなどのデジタル機器の写真がやや古い感じがしますが、しかし内容的には、日本の図書館を利用する私たちにとって、図書館の将来あるべき姿を考える上でとても参考になります。
 
本の構成は、序章 図書館で夢を叶えた人々、第1章 新しいビジネスを芽吹かせる、 第2章 芸術を支え、育てる、第3章 市民と地域の活力源、第4章 図書館運営の舞台裏、第5章 インターネット時代に問われる役割、です。
 
この本を読むと、ニューヨーク公共図書館は単に本を借りる場所ではなく、市民が自由に無料で多種多様な情報にアクセスし、自分の夢を実現するための「知的インフラ(基礎的な施設)」として非常に多くの人々に使われていることが分かります。この図書館は市が直接運営する、いわゆる公立図書館、ではなくNPO(非営利民間団体)が経営する図書館です。その結果、図書館自身がニューヨーク市とは独立して自由に運営を出来るのかもしれません。しかし、それだけに運営費(州や市からの資金の他に民間からの寄付など)の獲得には相当頑張っているようです。もともとニューヨークにあった2つの個人図書館が合併し、その後鉄鋼王カーネギーからの大口寄付を得て作られた図書館だそうです。
 
全体の章を通して、著者の菅谷さんの図書館への思いがつよく伝わってきて、刺激を受けます。特に、多様な専門的情報へのアクセスに果たすニューヨーク公共図書館の役割に関しては、今の日本の大規模図書館でもとても及ばない素晴らしいものがあると感じます。
 
しかし、一方で、現在では家庭にいてもインターネットを通してかなりの情報にアクセスできます。むしろ情報が多すぎて、どの情報を取れば良いのか、どれが正しいのか迷うほどです。その意味では、多くの図書館は期せずして「本を貸す」という本来の基本的業務で十分市民に満足を与えることができる時代になったのかもしれません。私の経験では、本書に書かれているように情報を求めて図書館を利用することもかつては多かったのですが、インターネットの発達でその目的はかなり容易に達せられることが多くなり、図書館は「本と出会う」、「著者と出会う」、「新しい考えに出会う」という新たな刺激的な出会いの場として利用することが増えてきました。あるいは、図書館の主催する講座に出席して、人と出会うということもあるでしょう。多分、現在では多くの人がそのような図書館利用をしているのではないか思います。
 
ちなみに、私が最近水彩スケッチで訪れた岡山県立図書館はとてもすばらしい図書館です。利用者数と本の貸出数がこの何年間か日本一を続けています。建物と設備、蔵書数、利用環境、サービスのいずれをとっても文句無しの優れた図書館です。本書のニューヨーク公共図書館についての報告を読みながら、我が県立図書館のシステムも案外負けていないんじゃないかと思いました。
 
そして、ついでにこれは全く別の話なのですが、各地域で(町内などで)本当に個人的に私立図書館を開いて運営するというのも、地域への貢献として、また個人の生きがい(自己満足かもしれません)としてとても面白いことではないだろうか、と思ったりもします。ニューヨークの図書館も最初は個人の図書館として出発したということですから、そんな夢を膨らませる人も本好きの中には多分多いでしょう。