わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福」 (上・下) (ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社)

2018年10月9日



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この本の第1章「唯一生き延びた人類種」の20ページほどを読み終えた時、その内容の面白さにしばらく興奮がとまりませんでした。今から約20万年前に東アフリカで誕生したホモ・サピエンス(現生人類)が、その後全地球的に分布を広げ、そして現在の繁栄に至った過程は、最近新聞やテレビでよく取り上げられています。ホモ・サピエンスより先に中東・ヨーロッパを中心に分布していたネアンデルタール人が、ホモ・サピエンスより大きな脳容量をもち、火や道具を使い、体格も狩猟能力もホモ・サピエンスより優れていたのに、なぜ急に3万年前に滅んでしまったのか。自滅か、それともホモ・サピエンスとの大規模な戦いに負けたか。ネアンデルタール人ホモ・サピエンスの交雑はあったのか。このあたりの様子が劇的に書かれています。この本の原著は「SAPIENS: A Brief History of Humankind」(サピエンス:人類史概要)として2011年に出版されましたが、ひょっとしたら、この本の出版が今の人類史ブームに火をつけたのではないかと思われるほど、この本の記述は分かりやすく魅力的です。実際、この本の上巻の帯には「大反響!63万部突破!」下巻の帯には「世界中で大絶賛!!800万部突破!」と書かれ、この本が多くの読者を得ていることが宣伝されています。
 
本の表紙に書かれた説明によると、「著者ユヴァル・ノア・ハラリは1976年生まれのイスラエル歴史学者オクスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムヘブライ大学で歴史学を教えている。」とあります。現在42歳の若い気鋭の歴史学者です。続章を読み進むうち、著者の専門である中世史の宗教・戦争・政治・経済の話題にさしかかると、歴史上のエピソードを含めて時代の流れの記述が、あたかも実際に講義室で早口の講義を聞いているような雰囲気で次々と展開していきます。ちょっと足を止めて自分で納得しながら前へ進もうとすると、どう見ても上下巻それぞれ1週間でこの本を読み終えるのは無理だと分かります。
 
最初にこの本を読み始めた時の印象としては、図表や写真が少ない(つまり典型的な文系の本)、文章で語られる著者の知識背景についていくのにかなりの「持続した集中力」が要る、展開される論理に普段自分にあまり馴染みがないものが多くあり、じっくり考えないとついていけない部分がある、などがありました。しかし、このちょっと「奇抜」と思われる著者の論理・主張がこの本のやはり一番の「売り」なのだと思います。第2章 虚構が協力を可能にした から始まる「虚構」の話。宗教、国家、国民、貨幣など、すべてが「虚構」であり、この「虚構」をもとにホモ・サピエンス食物連鎖の頂点にたち、文明を築いていったことが語られます。
 
一度読んだだけでは、著者の主張を理解したかどうか自信が持てず、私は結局この本を二度読みました。二度目は、上巻のはじめに出てくる歴史年表をコピーして、それを手元に置いて読みました。また、章立てをしっかり理解するために、本文を読みながら時々各ページの下に書いてあるその章のタイトルに目をやりました。これによって著者の論点がかなり分かりやすくなりました。さらに、大事と思われる部分に付箋をつけて、時々読み返しました。おかげで最後は本が付箋だらけになりました。
 
結論から言いうと、やはりこの本は読まなければならないです。若い人たち、特に大学生、ビジネスマン、教職にある人、理系も文系も関係なく読むべき一冊だと思います。そして私のような高齢者も・・・。読了後に中身に圧倒されてため息がでます。現生人類ホモ・サピエンスの誕生から現在、そして未来に思いをはせるのも、時には大事なことでしょう。人の一生の短さを感じ、しかし、この短い一生に偉大なことをやり遂げ、次々に世代を越えてそれを伝え続けるホモ・サピエンスの「すごさ」を認識します、最後にこの本の翻訳をされた柴田さんもすごいと思いました。これだけの内容の本を、ブレずに手抜きせずに訳しきったことに脱帽です!