わたしの水彩スケッチと読書の旅

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名著を読む 『思考の整理学』(外山滋比古著、ちくま文庫)(そのIII)

2020年8月12日

 

『思考の整理学』の第3部と4部を紹介します。第3部では、(論文を書く上での)さまざまな情報を得るやり方について書かれています。「スクラップ」、「カード・ノート」、「つんどく法」、「手帖とノート」、「メタ・ノート」の各章では、だれでも一度はやった経験がある情報収集と整理の方法について解説されています。

 

この辺りが、どちらかというと、この本をこのまま読み進むか、途中のここでやめるかの分水嶺になるかもしれません。インターネットですばやく多量の情報を得るのが当たり前の現代では、ここに書かれている情報収集・整理法はやや前時代的な感じがします。この部分が結構長く続くので、読者はもしかしたらここで嫌になるかもしれません。私も1回目にこの本を読んだ時はそうでした。しかし、社会の動向に関心をもつ人にとって、新聞記事のスクラップは今でも情報収集の要ですし、ノートへの丹念なメモや、仕事のためのノート作り(外山さんは、メモ・ノートにもとづいて、さらにその上につくるノートをメタ・ノートと呼んでいる)は、どんな時代でもアイデア醸成の基本です。著者の少し昔の経験も参考になります。

 

この第3部は、誰でもよくわかっていることなので、気楽に読み流しても問題はなさそうです。ノートの作り方など、社会人なら多くの試行錯誤を通して自分流のやり方をすでにもっていると思うのですが、現役の大学生だと、ここに書かれている外山さんのノート作りの例も、まねてやってみる価値があるかもしれません。

 

そして第4部。この第4部は、私にとっては、今までの流れからすると意外な展開でした。最初の章は「整理」。以下、「 」内が本文からの引用部分です。

 

「こどものときから、忘れてはいけない、忘れてはいけない、と教えられ、忘れたと言っては叱られてきた。そのせいもあって、忘れることに恐怖心をいだき続けている。悪いときめてしまう。

 学校が忘れるな、よく覚えろ、と命じるのは、それなりの理由がある。教室は知識を与える。知識をふやすのを目標にする。せっかく与えたものを片端から、捨ててしまっては困る。よく覚えておけ。覚えているかどうか、ときどき試験をして調べる。覚えていなければ減点して警告する。点はいい方がいいにきまっているから、みんな知らず知らずのうちに、忘れるのをこわがるようになる。

(中略)

 勉強し、知識を習得する一方で、不要になったものを、処分し、整理する必要がある。何が大切で、何がそうでないか。これがわからないと、古新聞一枚だって、整理できないが、いちいちそれを考えているひまはない。自然のうちに、直感的に、あとあと必要そうなものと、不要らしいものを区分けして、新陳代謝をしている。

 頭をよく働かせるには、この“忘れる”ことが、きわめて大切である。頭を効能率の工場にするためにも、どうしてもたえず忘れて行く必要がある。

 忘れるのは価値観にもとづいて忘れる。おもしろいと思っていることは、些細なことでもめったに忘れない。価値観がしっかりしていないと、大切なものを忘れ、つまらないものを覚えていることになる。これについては、さらに考えなくてはならない」

 

要するに、不要なものは積極的に忘れて、頭の中を絶えず整理し、頭の掃除をしよう、という主張です。毎日の睡眠も、自然な頭の整理法だと書かれています。つまらないことは一晩寝れば忘れますから、これはよく分かります。「積極的な脳内整理・断捨離のすすめ」。これは意外でした。

 

続く章の中でも著者は、「思考の整理とは、いかにうまく忘れるか、である」と断言し、繰り返し「捨てる」ことの意義を説いています。しかし、実際にこれまで蓄えた知識などを自然に忘れるのではなく、意識的に捨てるというのは、なかなか厄介です。これはどうやったらできるのか。本書を読んだだけでは、私にはすぐには分かりませんでした。とりあえず、読まなくなった本や雑誌、要らなくなった古いスクラップブック、ノート、メモ帳など、そして最近やたらと貯め込んでいる写真や文書などのデジタル情報は、いつまでも本箱や机の引き出しやパソコンの中に溜め込まないで、思い切って処分せよ。ただし時間をかけてよく考えて、ということなのだと理解しました。これだけで、果たして、自分の頭が過去から解き放たれて、本当に自由になるのか。私にはよく分かりません。

 

そして、理屈はいろいろあるのだけれど、とにかく書き始めてみよう、ということで、「とにかく書いてみる」という章がきます。そして何か書くにあたっては、テーマと題名が要るというので、その話題が続きます。この辺りの話は、具体的に卒業論文作成を控えた大学生には参考になる部分でしょう。ピグマリオン効果という聞き慣れないものも紹介されていました。つまり、自分が書いたものを他人に評価して貰うときには、細かくケチをつける人にではなくて、いいところを見つけて褒めてくれる人にお願いすると、その褒められた人の思考は更に活発になるということです。自分を褒めてくれる人を友達に選ぼう。これは私もそのとおりだと思います。

 

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