わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき」(ジル・ボルト・テイラー著、新潮文庫)

20138

 

人間は脳なしには生きていけません。話したり、ブログの文章を書いたり、スケッチをしたり、歩いたり、食べたり、これはすべて脳があるからできることです。これは当たり前のこととして分かっているつもりですが、普段はあまり脳のことなど、真剣に考える機会がありません。ただ、3年前に父が脳梗塞になり、救急車で病院に搬送され、その脳の血管に詰まった血栓を溶かす治療の際の投薬で脳内出血を起こし、右半身不随となり、その後リハビリ等の甲斐なく1年後に死去したのですが、何も話せない父が頭の中で一体何を考えていたのか、いつも知りたいと思っていました。この本は、アメリカ・ハーバード大学で脳解剖学の専門家として活躍していた女性が37歳の時に自宅で脳卒中で倒れ、その後長いリハビリを経て復活する体験記です。さすがに脳の専門家だけあって、脳卒中にかかった時の状況や、その直後の心理的な描写、体の具合、そして回復期のこころの様子が、非常に鮮明に書かれています。


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 脳には右脳と左脳があります。日常生活でも「私は右脳人間だと」とか「今、左脳が働いているよ」とか、よく言ったりします。血液型のA型、B型、AB型、O型で人の性格を判断したりするのには科学的根拠がないのに比べて、「右脳・左脳」には、科学的にしっかりとした裏付けがあることが分かります。普段は、右脳と左脳がバランスよく働き、私たちの調和のとれた思考や行動を可能にしています。脳卒中は日本人死因の第3位ですが、左脳の方が右脳より4倍も多く起きるそうで、それによって、左脳にある言語中枢の能力、つまり言葉を話したり、人の話を理解したりする能力や、論理的に考えて文章を作る能力、記憶などが、一度に失われてしまうことがよく起きます。そのような時、つまり左脳がやられて右脳が残った場合、人間はどんな状態なのか、これがこの本を読むと実によく分かります。ああそうか、左脳に出血が起きて病院のベットで寝たきりの父親に話かけても、何かうつろな表情だったけど、あの時、私が来たことは分かっても、私が話すことの意味はよくわからなかったんだろうなあ、と今になって気が付きます。


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 この本の著者のジルさんによると、右脳の世界は、「夢の国に出かけているような魅惑的な世界で、神のような喜びと安らぎと静けさに身を任せる」世界なのだそうです。続いて、本の一部を抜粋します。「左脳とその言語中枢を失うとともに、瞬間を壊して、連続した短い時間につないでくれる脳内時計も失いました。瞬間、瞬間は泡のように消えるものではなくなり、端っこのないものになったのです。ですから、何事も、そんなに急いでする必要はないと感じるようになりました。左の脳の「やる」意識から右の脳の「いる」意識へと変わっていったのです。言葉で考えるのをやめ、この瞬間に起きていることを映像として写し撮るのです。過去や未来に想像を巡らすことはできません。なぜならば、それに必要な細胞は能力をうしなっていたから。わたしが知覚できる全てのものは、今、ここにあるもの。それは、とっても美しい」。「右脳には、心の奥深くにある、静かで豊かな感覚と直接結びつく性質が存在し、右脳は世界に対して、平和、愛、歓び、そして同情をけなげに表現し続けている」。さらに「左脳は、細部で頭がいっぱいで、分刻みのスケジュールで人生を突っ走ります。左脳はくそ真面目なのです。歯ぎしりしながら、過去に学んだことに基づいて判断します。一方、右脳はとにかく、現在の瞬間の豊かさしか気にしません。それは人生と、自分にかかわるすべての人達、そしてあらゆることへの感謝の気持ちでいっぱい。右脳は満ち足りて情け深く、いつくしみ深い上、いつまでも楽天的。右脳の人格にとっては、良い・悪い・正しい・間違いといった判断はありません」と、右脳で生きた彼女の体験を語ってくれます。


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えてみれば、私も左脳に頼って、左脳を鍛えながら、左脳に価値を置いて、これまでの人生を生きてきたような気がします。しかし、水彩スケッチをしている時や、音楽を聴いている時は、自分が右脳の世界に浸っていることが自覚できます。目の前に広がる素晴らしい風景を目にして、スケッチブックにその風景を写しとろうとするときは、自然そのものと自分の心が一体化しているような気がしますね。私の風景画は、多分間違いなく「右脳の絵」です。絵の構図も考えたりはしますが、限られた時間内にとにかく目の前の風景を写し取るのに必死です。絵を「左脳」で作っていくようなゆとりはありません。私のブログのタイトルも「芋宇(いもう)ただし」から「右脳ただし」に変えた方がいいかもしれません。
 

というわけで、今日も右脳を働かせて、水彩スケッチをしました。今日は我が家の庭に植えているブドウの木からとったブドウの葉と実です。まだ、実は完全に熟れてはいませんが、元気な粒粒が色づいてきました。今日の紙は、自分としては珍しくアルシュの荒目です。紙が変わると絵が変わってきますね。今日はまた、いつもと違ってきちんと鉛筆で下書きをしないでいきなり描き始めました。「右脳」に任せて感性で絵を描こうと試みたのですが、私は初めにしっかりとしたラインが無いと心細くて色がうまくつけられません。ラインに頼るところはやはり「左脳」が働いているのかもしれませんね。絵を描きながら脳が右往左往しています!



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