わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

トーマス・マン「魔の山」

20137

 

おそろしく読むのに時間のかかる小説です。通勤の片道15分の間に読むと決めて読み始め、ほぼ半年かかりました。主人公の青年、ハンス・カストルプ。さすがに半年も付き合っていると、名前も忘れませんね。主人公は、スイスの高地療養所にいる自分のいとこの青年を見舞いに訪ねて行くのですが、そこで自分も軽い病気と診断されて、いとこと一緒にその高地療養所に滞在することになります。そこでの様々な病気療養中の人々や医師との出会いの中で、ハンス・カストルプが人間として成長していく姿が描かれています。特徴的なのは、ハンス・カストルプの過ごす一日の時間が長いこと、そしてその長い一日の中で、いろいろと思索を巡らせ、いわゆる哲学的な「心の旅」をすることです。最初は、このハンス・カストルプの心の旅にとてもついていけない、と思うのですが、それでも、なぜかこの本を投げ出せず、どこまでもついて行くよ、と思わせられるのが不思議です。「魔の山」を読んでいて強く感じたのは、著者トーマス・マンの哲学的思考力、そして、彼の長く難解な文章を丹念に翻訳した訳者の高橋義孝さんの日本語・ドイツ語力ですね。トーマス・マンがこんな長編をよく書けたなあと驚くとともに、高橋さんがこんな長い難解な文章を最後までよく翻訳できたなあと感心させられます。確か、この翻訳は、名訳として世に知られています。


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 この本を読んだきっかけは、「魔の山」が岩波新書の斉藤孝著「読書力」に文庫百選として推薦してあったことです。この斎藤孝さんの「読書力」からはいろいろと影響を受けました。この人が薦める本は、どれも読むのにかなりの努力と時間を要する本です。それだけに、読み終わると、何とも言えない充実感が残る本が多いと思います。読書が人をつくる、というのを実感します。「魔の山」のような大作が読めると、もうどんな本でも読めるという気になります。不思議ですね。ハンス・カストルプ、最後は第一次世界大戦に従軍して戦場に行くところで話が終わるのですが、あんなに多感で、病気と闘いながら様々な経験を積んだ青年が、あっけなく戦場で大事な命を失うのかと思うと、やりきれない気持ちになります。戦場で弾丸の飛び交う中を泥まみれになりながら、ハンス・カストルプは「菩提樹」の歌を低い声で口ずさみます。私が小学校のころ憧れたウイーン少年合唱団がよく歌った「菩提樹」の歌がこんなところで出てくるのが、なんともせつないですね。

 

魔の山」は、舞台がスイスアルプスの高地療養所ですので、内容は、生きることと死ぬこと、病気と健康などのテーマに深くかかわってきます。生きることと死ぬことは、確かに自分の身近にある非常に重要な哲学的テーマです。この本を読んで、トーマス・マンは生と死の問題を小説の形で読者に語っている、という印象を持ちました。


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今日は町内の夏祭り。猛暑の土曜日です。自宅の窓から見える近所の家を描きました。ついでに最近練習に描いたモジリアーニの「セイラー服の若い女性」の模写も載せます。魔の山のハンス・カストルプが愛した高地療養所の若いロシア女性のイメージです。 


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