わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『語感トレーニングー日本語のセンスをみがく55題』(中村 明著、岩波新書)

2022年9月14日

 

 

誰でも「自分の日本語のセンスは大丈夫だろうか」と気になる時があります。しかし実際のところこの日本語のセンスは長年日本語と接していながらなかなか思うように磨かれるものではありません。本書のタイトルは「語感トレーニング」とあるので、これを読むと語感が少しはとぎすまされるのかという期待を持ちますが、本書はむしろ現在の読者の語感のレベルを自己点検するチェックブックのような役割を果たしていると感じました。

 

本書の著者は日本語文体論・表現論を専門とする国語学者です。長期の研究の成果を一般の人々にもわかりやすい形で紹介する目的で、55の設問形式で著者の日本語の語感についての見解を説明しています。語感とは言葉の表現のニュアンスのことです。一つ一つの設問に自分で答えていく中で、語感の意味するところがだんだん分かってきます。

 

55の設問に答えながら自分の日本語のセンスをチェックしていくわけですが、全ての設問に答え終えてみて、やはり語感というのは、時間をかけて様々な本を読んで、更に様々な文章を書いて、自分で鍛えていくしかないと強く感じます。短時間で人から教えられるようなものではないということです。日頃の読書と作文(物書き)の積み重ねでしか語感は身につかないのではないでしょうか。

 

日本語の語感がそうですから、英語に至っては語感を理解するのはますますむずかしい。私など英語を習いはじめてもう60年になるのに、未だにこの言葉のニュアンスが正確には分からない。日頃、英語で会話をしたり読んだり書いたりする機会が極めて少ないので無理もありません。言葉との格闘は一生続くものだとつくづく感じます。

 

本書に戻ると、この55の設問はとてもよく考えられたものですが、私個人にとっては難問は比較的少ない気がしました。読者を日本語の学習者に置くのなら、これらの設問は日本語の勉強の一つのよい道標になるはずです。しかし、一般社会人にとっては、もう少し難易度の高い、中級・上級者向けの設問を期待したいところです。それとそれぞれの言葉の語感を示すよい文章を出典付きの例文として多くあげていただきたいという希望があります。読者が後で原典に触れてみて納得するためです。そうなると最後には読書紹介のような内容になるかもしれませんが、そのほうが読者を日本語表現の世界に更に深く導くことに役立ちそうな気がします。続編を期待します。

 

今日の俳句

「秋暑したびたび喉の乾く午後」

 

残暑の厳しい一日でした。