わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『光をえがく人』(一色さゆり著、講談社)

2022年2月24日

 

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アートは人生にどんな意味をもつのか。そんな大げさな問いかけとは無縁な、というか、そういう問いかけが似合わない文章。しかし、人生におけるアートの意味をしみじみと読者に伝える印象的な内容です。

 

本書に収められている短編は5つ。著者の視点は深くアジアに根ざしています。韓国、フィリピン、香港、モンゴル、ミャンマー、そして日本。日本以外のこういう地域の人たちを主題にした文章を読むことはこれまで余りなかった。とても新鮮です。著者の経歴を見ると、東京芸大美術学部卒。香港中文大学大学院卒。単にアートの話だけではない。それぞれの場所での人々の暮らしや最近の政治状況が意識されています。これまでの著者の経験が文章の中にリアリティを与えていて、静かな筆致なのに、文章の中になにかゆるぎないものを感じます。

 

仕事でも趣味でも、とにかくアートと関わっている全ての人がそれぞれ物語をもっているはずです。本書を読むと、そんなアートに関わる物語を自分や周りの人の中にさがしてみたい、そんな気分にさせられます。

 

短編の内容は、劇的な結末があるというわけではないのですが、心に残りました。もう一度読見返してみたくなる短編集です。