わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『サキの忘れ物』(津村記久子著、新潮社)

2021年9月18日

 

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この本を読んだのは朝日新聞の2つの記事がきっかけでした。一つは2021年5月29日付けの読書欄。今「売れている本」としてこの『サキの忘れ物』が紹介されていました。「収録作が、今年の大学入学共通テストや私立麻布中学入試の国語の問題になったこともあり、じわじわと版を重ねた。」とあります。大学入試に使われる作品というのは、私の経験では、たいていしっかりとした魅力的な文章で書かれていることが多く、一度読んでみる価値はある気がします。その朝日新聞の書評(評者:作家・大竹昭子)には、「津村記久子は『平熱』の人である。自分を取り巻く物事や人間を偏りのない眼で観察し、想像力の器で培養する」と書かれていました。

 

もう一つに記事は7月23日の記事で、「オトナになった女子たちへ」というイラストレータ益田ミリさんの文章がでていました。

 「わたしは作家の津村記久子さんの作品のファンなので、津村さんの新作が希望のひとつなのだった。

 津村さんの小説は、まるごと一冊読んで楽しむのはもちろん、開いたページだけを読むのもいい。なんなら開いたページから適当に選んだ1〜2行を読むだけでもいい。言葉がじんわりと胸の中にしみ込んできて、津村さんが同じ時代に生まれてくれて本当によかった、どうもありがとうございます、とナニかにひれ伏したくなる(ナニに?)」

 

これほど評価を受ける本書です。実際読んでみた感想は、比較的若い女性の立場で書かれていて、やはりこの30〜40代世代の女性に支持されているという感じがしました。そもそも本を手にとって表紙カバーを眺めた時からこの本の雰囲気が感じられます。

 

9つの短編からなりますが、特に表題作の「サキの忘れ物」、「河川敷のガゼル」、「隣のビル」が良いと思いました。「行列」と「真夜中をさまよえるゲームブック」は、読み手が慣れない新しい形式だったり、現実離れした想像を求める要素が強すぎたりして、ちょっと私のような高齢の読者にはついていけませんでした。若い読者にはこの新しい試みが受けるかもしれません。

 

全体に、穏やかな静かな雰囲気の作風です。文章も無駄な飾りがありません。確かに、ふっとページをめくって、そこの部分だけ読んでも満たされるような、そんな感じがあります。