わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『子どもの貧困 II – 解決策を考える』(阿部 彩著、岩波新書)

2021年8月1日

 

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以前に読んだ『子どもの貧困 — 日本の不公平を考える』(2008年)の続編です。2008年に日本の子どもの貧困を具体的なデータをもとに紹介し、大きな反響を呼んだ最初の著書に続いて、第2著書ではこのような子どもの貧困問題を解決するには具体的に何をすればいいのか、について提言を試みています。

  

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しかし、本書の「はじめに」に書かれているように、問題解決は容易ではありません(以下、「はじめに」の一部を引用)。

 

「必要なのは、子どもの貧困問題に取り組む『決意』だけではない。たとえ日本国民が全員一致で『子どもの貧困対策に全力を注ぐ』と判断したところで、いったい、どのような政策をとれば、子どもの貧困が削減できるのか、実は、その明確な『解決法』がわかっていないのである。現代の貧困は、複雑で、多面的である。ただ単に、子どものお腹を満たし、服を着せ、義務教育までの学校に行かせることだけでは、今の日本の貧困が解決しないことは、誰の目にも明らかである。しかしながら、その先に、どのような支援が必要であるのか、『貧困の連鎖』を断ち切る具体的な支援の道筋が明確ではないのである。」

 

本書では、社会政策として何が大事か、政策に多くの選択肢がある中で何を優先すべきかを解説しています。子どもの貧困問題の専門家の視点は、問題の全体を見渡す上で参考になります。貧困層への現金支給、特に母子家庭への支援、就学前(0〜6歳)の子どもへの支援、教育改革、奨学金の拡充など、多くの政策の必要性が述べられています。ここでも前書と同様、データに基づいて説明が展開され、説得力があります。

 

それでは、地域に暮らす一市民としては何ができるか。生活の中でこの問題の解決に関わることは容易ではありませんが、すでに貧困層の子どもたちへの生活支援や教育支援に全国の多くの団体・個人が貢献している現状があります。本書には市民レベルでの活動のヒントになることが多く書かれています。

 

ずーっと本書を最後まで読んできて「あとがき」を読んだ時に、著者の言葉がとても素直で、子どもの貧困問題をめぐる取り組みについての著者の現在の心境を正直に表しているような気がしました。

 

「前著『子どもの貧困』(2008年)のあとがきの中で、私は、『日本の貧困の現状について、多くの人が納得できるデータを作りたい。それが、私の研究テーマである』と書いた。

 しかし、この時の私の認識は、大幅に甘かったといわざるを得ない。この五年間で、私は100回以上、子どもの貧困について講演した。国会議員から、経済団体、一般市民の方々まで、それこそ、ありとあらゆる人々に対してである。そして、そのたびに突きつけられるのが『納得できるデータを作る』だけでは不十分であるということである。(中略)今の問題は、子どもの貧困が社会問題であると社会に説得すことではなくなったのである。何をすれば子どもの貧困が解消できるのか、その解決の道筋を示すことなのである。」

 

著者の焦りのようなものまで感じられる文章ですが、具体的には一歩一歩やれることからやるしかないと思います。まずは『納得できるデータを作る』ことはとても重要。そのデータを見て、市民は考えます。政府や地方行政の有効な政策もさらに加わり、市民レベルの活動もこれまで以上に多面的に広がって、10年後、20年後には少しでも日本の子どもの貧困問題が解消に向かっているといいなと思います。