わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『子どもの貧困 — 日本の不公平を考える』(阿部 彩著、岩波新書)

2021年6月8日

 

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日本の貧困問題は今や無視して通り過ぎることが出来ない問題です。その中でも特に厳しいのが子どもの貧困問題です。本書は子どもの貧困問題を問う研究をリードする著者が、その研究の内容をわかりやすいかたちで公開し、解説するという内容です。読むのにある程度時間がかかりますが、とても参考になりました。著者の論理の展開はおおむね理解できて、途中で投げ出したくなるような難しいものではなく、むしろもっと先を読みたいと思わせてくれる内容でした。

 

本書は単なる貧困問題の解説書ではありません。中身は子どもの貧困に関する具体的な統計データの連続で、まさに研究書です。国際的なデータの比較が多く示されています。最初戸惑う読者もいるかもしれませんが、これは自然科学の研究などでは当たり前のやり方です。つまりデータ中心主義です。データをじっくり解説して、それから次に進む。この繰り返しです。読者は、したがって、途中で分からなくなっても、そのまま先に進まないで、納得の行くまでデータの意味を考えなければなりません。一つ一つのデータをみて理解できると、何となく「あー、分かった」という、中学・高校で数学や理科の問題集の問題を解けた時のような快感に襲われます。それで一つ一つ章を読み終わるごとに、理解できた快感と、理解の結果分かった現実の厳しさに対する憂慮の気持ちが混じり合います。

 

子どもの貧困問題はここまできているのか、と認識を新たにします。この本のデータを見ながらいつも私が考えていたのは、自分の子供時代のことです。戦後の貧しい混乱期に生まれた私達(団塊の世代)でしたが、それほど貧困は意識しませんでした。ほとんどの国民が貧しかったせいでしょうか。それから小学校の高学年になる辺りから、各家庭の経済格差を意識し始めました。裕福な家庭の子(私ではありません)ほど勉強もよくできると何となく感じました。中学時代は、田舎の中学でしたが、家庭環境の違いで学力に差がでることをもっとリアルに感じました。ある程度経済的にゆとりがあると、塾に通わせてもらうのが普通でした。その結果、成績に差ができて、どの高校へ行くのかが自ずと決まりました。高校になるともう塾に行くのが当たり前でした。あの昭和30年代でも、子供を塾にやる十分な経済力がない家庭では、大学進学はかなり難しかったと思います。

 

現実に今の日本で何が起きているのか。予想通り、母子世帯の経済状態が厳しい。その結果、母子世帯の子どもの貧困問題が顕著に現れています。そしてそのような子どもたちの学力が相対的に低く、高校や大学への進学がままならず、貧困の連鎖から抜け出せない。しかし、そのような母子世帯への公的支援は限られていて、解決策にはなっていない。

 

こんな現実を見せられて、さて私達には何ができるのか。とても考えさせられます。全国の子ども食堂、学習支援などのボランティアの人たちがかなり熱心に活動しています。政府や行政が無策なら、市民レベルで何かやれることはないか、と行動する人たちが多いのです。私も2,3年前から地域の小学校の放課後学習ボランディアに行っています(現在は新型コロナで中断中)。特に小学校低学年の子どもへの支援が大事という本書の解説を読んで、改ためてそのボランティア活動の重要性を理解しました。本書の続編(『子どもの貧困 II』では、具体的に子どもの貧困問題の解決策を考えています。次も続けて読む予定です。