わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『給食の歴史』(藤原辰史著、岩波新書)

2021年5月6日

 

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小学校・中学校の給食については、どんな世代の人でも、その人なりの思い出が必ずあるはずです。私の場合は昭和30年代の初めごろのコッペパンとマーガリンとスキムミルクの給食です。食器は使いまわされてあちこち傷が入ったり凹んだりしたアルミ製の簡易食器でした。確か1年に1度ぐらい、どういうわけか砂糖をふった揚げパンが出てきて、それがとてもおいしかったことが忘れられません。コッペパンはやがて食パン1枚に変わり、マーガリンに代わってジャムやヤギのミルクから作った甘いクリームがついたりしました。そして週の半分は自宅から弁当を持って行ったと思います。おかずはいつも卵焼き、漬物、野菜の煮物など簡単なものばかり。肉はなし。ハムやソーセージなど当時まだありませんでした。煮物の汁がいつもご飯の方に移り、冷たいご飯全体に醤油味がついていて、何とかしてよと母に頼んでも大きな改善なし(母は料理が苦手でした)。昼食時にアルミ製弁当箱のフタについている野球選手の絵が幼い私を憂鬱にしたのを憶えています。中学になると、給食は無く毎日弁当持参でした。何時の頃からかビン入の地元の牛乳1本が毎日配られるようになり、この牛乳が出たときには、生徒から「おおっー」と驚き(喜び? 戸惑い?)の声があがりました。

 

しかし、このような給食が、内容は不十分でも子供の成長を支えてくれたことは間違いありません。おいしくないコッペパンや鼻をつまんで飲んだぬるくてまずいスキムミルクのおかげで、戦後すぐの食糧難の時代に子どもたちの基礎的な栄養がかろうじて保たれたのです。そう思うと今でも感謝の気持ちがわきます。

 

本書の著者は1976年生まれの比較的若い (40代半ば) 研究者で、現在京都大学人文科学研究所准教授。農業史が専門です。本書では

  • 舞台の構図
  • 禍転じて福へ ― 萌芽期
  • 黒船再来 ― 占領期
  • 置土産の意味 ― 発展期
  • 新自由主義と現場の抗争 ― 行革期

と、まさに私達が経験した給食の歴史を追って、全国の現場に取材した力のこもった解説が展開されています。

 

今の学校給食はとても美味しくて、子どもたちは給食の時間を心待ちにしているようです。そして給食は戦後すぐの私達の時と同じように、今も子供の生きる力になっています。家庭の事情(貧困など)で満足に食事がとれない子どもたちも、この給食の時間にはクラス全員で先生も一緒になっておいしい食事を楽しむことができます。給食センターではなく、自校で給食を作っている学校では、地元で取れた食材を使ってさまざまに工夫された給食が作られているそうです。給食を通して、地域のこと、食糧のこと、環境のこと、健康のことなど、さまざまなことが学べるわけで、学校生活の中では大事な時間となっています。

 

私自身は、しばらく前から子供の貧困問題に関心があって、全国で展開されているこども食堂の活動も、もしやれるならやってみたいと思ってきました。自分が料理好きなのでなおさらそのような気分になるのかしれません。しかし、本書を読むと、まずその前に学校給食の質を高める(維持する)ことが大事だと感じました。本書の最終章(第6章)「見果てぬ舞台」では、著者の給食への思いと期待が述べられています。「給食は、役割を終えた旧時代の遺物ではない。世界史を歩み始めたばかりの新時代のプロジェクトなのである。」という最後の結びの言葉が力強く響きます。給食を視点とした日本の近代・現代史。身近な問題だけに理解しやすい内容。お薦めです。