こんな本読んだことありますか? 『時代を撃つノンフィクション100』(佐高 信著、岩波新書)
2021年4月13日
評論家・佐高 信さんが選ぶ100冊のノンフィクションの紹介です。本書の「はじめに」に、著者がこの本を通して読者に伝えたいメッセージが述べられています。
「私は徹底的に『上から目線』を排し、ローアングルで人間や社会をとらえた作品を選んだ。およそ30年前に岩波新書で『現代を読む』と題して『100冊のノンフィクション』を提供したが、私は『まえがき』に『すぐれたノンフィクションは時代の鼓動を伝える。現代に生きる人びとの息づかいを伝える。海、旅、風あるいは青春という感じの軽いエッセイや紀行文のようなノンフィクションがもてはやされているが、それらは流動食であって、あまり栄養にはならない。時代に挑み、まるごとその何かを切り取ったノンフィクションこそ、容易に咀嚼し難くても、読者の血となり肉となるのである』と書いた。その問題意識で、今回も『事実に近づく興奮』(佐木隆三)を感じさせる作品を選んだ。」
100冊のノンフィクションはいずれも強烈なインパクトをもつものばかりです。1冊の作品の内容がそれぞれ見開き2ページに紹介されています。わずか2ページにうまくまとまっているなあと読みながら感嘆。2ページなので、読みやすいのと同時に、作者が作品から抽出したエッセンス(本質)が読む者の心に迫ってきます。2ページごとに、どちらかというと頭を拳でガーンと殴られたようなショックが続きます。あの時こんなことがあったのか。ショックの連打です。昭和の戦前から戦後、そして平成、令和の現代に至るまで、日本の社会の知られざる深層を大胆にえぐり出して見せる感じとでも言えばいいでしょうか。
これらの著者(佐高さんを含む)はペンに命をかけているのが分かります。エッセイや紀行文が好きで、そういうものを少し書いてきた私は、最初の「はじめに」の中の「(そんな軽いものは)流動食であって、あまり栄誉にはならない」という佐高さんの言葉にやや打ちのめされてしまったのですが、確かに、ここに紹介された作品の著者達は政治や社会のタブーに挑戦し、命がけて文章を書いています。
正直言って、今更あの事件の真相は知りたいとは思わない、とか、この話は毒が多すぎて自分には読めそうにない、という作品も多々あります。しかし、本書をさっと通読するだけで、私達が生きてきた日本の社会がどういうものであったのかを再認識することができます。そして、本書のタイトル通り「時代を撃つ」著者達の強靭な姿勢が強く印象に残ります。