わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『「読む」って、どんなこと?』(高橋源一郎著、NHK出版)

2020年12月17日

 

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NHK 出版の「学びのきほん」シリーズの1冊です。120ページ足らずの小冊子。しかも大きめの活字で印刷してあるので2時間もあれば読めます。短時間で読めるのですが、中身はかなり濃い。表紙の下の方に小さな字で、『「わたし」の言葉で考え抜け』と書かれています。1度読んでおしまいではなくて、時を置いて2度、3度と読んで自分の「読書」についてじっくり考えたくなる本です。

 

著者の高橋源一郎さんは1951年生まれの作家。団塊の世代ではないけれど、それに近い(それより少し若い)世代で、新聞・ラジオ・テレビなどでおなじみの人です。

 

本書では、まず序章で小学校の国語教科書の文章を取り上げて、文章を学校で学ぶ時の読み方について述べられています。教科書の検定を文科省(国)が行っているので、国が小学生に求める国語の学び方(または先生が生徒に教える際の教え方)(手引き:ガイドライン)がわかります。

 

そして本論に入ると、学校の教科書では取り上げられない文章が紹介されます。オノ・ヨーコ鶴見俊輔、長沢光雄、坂口安吾武田泰淳藤井貞和荒川洋治加藤典洋。読んだことのある作家もそうでない作家もいますが、紹介された文章は学校では読まない(読めない)文章です。そして、中にはかなり刺激的・衝撃的なものもあります。

 

著者の主張を述べた部分を本文から引用します。

「わたしには、ひとつ、大切にしている原則があります。もちろん、これは、わたし個人の原則です。どこでも通用するものではありません(ほんとうは、どこでも通用するものだとは思っていますが)。

 それは、

 たくさん問題を産み出せば産み出すほど、別のいいかたをするなら、問題山積みの文章こそ、『いい文章』だ、ということです。つまり、その文章は、問題山積みのために、それを読む読者をずっと考えつづけさせてくれることができるのです」

 

著者は、「学校は、『社会』のことばを教える、いやもっと露骨にいうなら『植えつける』場所であり、その『社会』が、その奥に、どんなことばを隠し持っているかを見つけることは、ひどく困難です。」と述べて、更に「学校もまた、『社会』がもっとも力を発揮することのできる場所なのです。」と書いています。社会は国家と言い換えることができるでしょう。学校の国語で取り扱われる標準的な作品以外に、問題ありと思われる作品を読むことによって、自分のものの見方や考え方が広がると述べています。その意味では、狭い日本社会の作家の作品に満足せず、広く世界の多様な社会の作家のものを読むというのも大事なことでしょう。

 

学校で基本的な読書を学んで、あとは自分の読書の世界を広げる。読書は物事を考える上で大事なきっかけになります。本書の表紙の『「わたし」の言葉で考え抜け』、という文章は、自分にとって衝撃的な本と出会い、考え、成長しようという、著者のメッセージなのだと分かります。