わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『センス・オブ・ワンダー (The Sense of Wonder)』(レイチェル・カーソン著・上遠恵子訳、新潮社)

2021年1月6日

 

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わずか60ページほどの小型の本です。著者のレイチェル・カーソンは、アメリカの海洋生物学者・作家で、有名な『沈黙の春(Silent Spring)』を書いた人です。『沈黙の春』は化学薬品による環境破壊を告発した書として、出版(1962年)以来広く世界中で読まれ、高校や大学の環境教育の場では「必読書」とさえなっています。本著『センス・オブ・ワンダー』は56歳の若さで亡くなった著者最後の出版物で、地球環境の素晴らしさ、自然の美しさ、生命の尊さなどを子どもたちや親たちに伝える目的で書かれました。

 

翻訳者の上遠恵子さんの訳が素直でていねいです。上遠さん自身も自然科学の研究者で、関連する海外の著作の翻訳を多数手がけておられるようです。中に収められた森本二太郎さんの写真も美しく、本に魅力を添えています。

 

まず、その冒頭部分を引用します。

 

「ある秋の嵐の夜、わたしは一歳八ヶ月になったばかりの甥のロジャーを毛布にくるんで、雨の降る暗闇のなかを海岸へおりていきました。

 海辺には大きな波の音がとどろきわたり、白い波頭がさけび声をあげてはくずれ、波しぶきを投げつけてきます。わたしたちは、まっ暗な嵐の夜に、広大な海と陸との境界に立ちすくんでいたのです。

 そのとき、不思議なことにわたしたちは、心の底から湧きあがるよろこびに満たされて、いっしょに笑い声をあげていました。

 幼いロジャーにとっては、それが大洋の神の感情のほとばしりにふれる最初の機会でしたが、わたしはといえば、生涯の大半を愛する海とともにすごしてきていました。にもかかわらず、広漠とした海がうなり声をあげている荒々しい夜、わたしたちは、背中がぞくぞくするような興奮をともにあじわったのです。

(中略)

 まだほんの幼いころから子どもを荒々しい自然のなかにつれだし、楽しませるということは、おそらく、ありきたりな遊ばせかたではないでしょう。けれどもわたしは、ようやく四歳になったばかりのロジャーとともに、彼が小さな赤ちゃんのときからはじめた冒険 — 自然界への探検 — にあいかわらずでかけています。そして、この冒険はロジャーにとてもよい影響をあたえたようです。

 わたしたちは、嵐の日も、おだやかな日も、夜も昼も探検にでかけていきます。それは、なにかを教えるためにではなく、いっしょに楽しむためなのです」

 

著者レイチェル・カーソンは、子どもにとっても親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない、と言っています。知識より、さまざまな情緒やゆたかな感受性を育むことが大事だと書いています。地球の奏でる様々な音やあらゆる生きものたちの声に耳を傾けることをすすめています。

 

ずっと読んできて、最後の方の言葉は、特に印象的です。

 

「地球の美しさについて深く思いをめぐらせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力をたもちつづけることができるでしょう」

 

「自然にふれるという終わりのないよろこびは、けっして科学者だけのものではありません。大地と海と空、そして、そこに住む驚きに満ちた生命の輝きのもとに身をおくすべての人が手に入れられるものなのです。」

 

 

センス・オブ・ワンダー』という本書のタイトルは、著者が子どもたちや親たちに、「この地球の自然や地球が育む生命がもつ素晴らしさ・美しさに感動する感性を持つことがとても大事だ」と伝えたくてつけられたのだと思います。