わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『100分de名著 坂口安吾 堕落論』(大久保喬樹著、NHK出版) [その1『堕落論』(坂口安吾著、青空文庫)]

2020年11月4日

 

これもNHKの朝ドラ『エール』の影響でしょうか。戦後すぐの日本の社会を書いた坂口安吾の作品を読みたくなりました。坂口安吾の多くの作品がインターネットの「青空文庫」に収録されているので、誰でも無料で読むことができます。

 

大久保喬樹さんの『100分de名著 坂口安吾 堕落論』の解説は、ポイントを押さえていて分かりやすい文章です。実際の『堕落論』を読む前、そして読んだ後にこの解説書を開くと、坂口安吾の世界がなお一層理解できると思います。

 

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『100分de名著 坂口安吾 堕落論』に使われた写真の多くが、私が前に紹介した写真家・林忠彦氏の撮影によるものです。林忠彦写真集『昭和を駆け抜ける』の裏表紙には、坂口安吾の仕事場での写真が使われています(昭和22年東京・蒲田)。「家人も入れたことがないという仕事場を、頼み込んで見せてもらい撮影した」と写真に説明書きがありました。机の上や畳の上に原稿や資料が乱雑に散り、半袖シャツ姿で座机に座った安吾の眼鏡越しの眼がギラギラ光る。なんとも凄まじい写真です。

 

 

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坂口安吾とはどういう人物だったのか。この『100分de名著 坂口安吾 堕落論』ではそれがよく分かります。この本は作品論というより作家論なのではないか、と思えるぐらい、安吾の紹介に力が入っています。安吾は明治39年(1906年)新潟市生まれ。父親は地元の資産家で衆議院議員。13人兄弟姉妹の12番目に生まれました。学校では初めは成績優秀でしたが、やがて成績が落ちて落第。東京の私立中学へ転校します。東洋大学印度哲学倫理学科入学・卒業。アテネ・フランセで熱心にフランス語と、20世紀フランス文学を学びました。昭和6年から小説を書き始め、多くの作品を書きましたが、太平洋戦争が終わるまでは大きく注目されることはありませんでした。戦後、昭和21年(1946年)に評論『堕落論』、小説『白痴』を発表して、一躍脚光を浴びた安吾は、その後非常に多忙な人気作家となります。「無頼派」と呼ばれて注目されますが、生活は荒れて、薬物中毒・発狂状態になるなどしました。その間も多くの注目される作品を書きましたが、昭和30年(1955年)脳出血で、48歳で亡くなりました。

 

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『100分de名著 坂口安吾 堕落論』の著者大久保さんは、「はじめに — 混迷する社会に立ち向かうために」の部分で次のように書いています。

 

「では、戦後70年を経たいま、この『堕落論』を読む意義はどんなところにあるのでしょうか。

 昨年(本書の出版は2016年7月)、憲法改正是非の問題などでさまざまな議論がなされたように、いま、日本人や日本社会は、どのような方向に向かっていけばよいのかという進路が明確に見えにくくなってきています。そうした状況に私たちはどう立ち向かえばよいのか―。

 『堕落論』の中で安吾は、そうした時には原点に還ることが必要だと述べています。世の中の規範、道徳、常識といった前提条件をいったんすべて外し、いわば素っ裸の人間になって現実に直面してみろというのです。安吾が放つ、固定化された前提を突破していくエネルギーは、常識的な人間にとって目から鱗が落ちるように刺激的なものです。特に、人生の転機に立った人、いままでの自分のやり方ではこれ以上進めないと感じている人にとっては、大変“効く”評論であるとも思います」

 

なるほど、安吾は、裸になって現実にぶち当たることを「堕落」と表現したわけですね。『堕落論』は短い作品です。青空文庫では坂口作品を487も公開しています。どれも戦後の混乱期の社会の中で、常識破りのエネルギッシュな作品群のようです。75年前の敗戦以来、日本人が迎えるおそらく最大の危機が今年2020年の新型コロナ感染症の拡大かもしれません。コロナ禍にある現代日本社会にとっても、何か大事なヒントがこれらの作品にありそうです。私も時間がある時に、少しずつ読んでみたいと思います。