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こんな本読んだことありますか? 『100分de名著 坂口安吾 堕落論』(大久保喬樹著、NHK出版) [その3『日本文化私観』(坂口安吾著、青空文庫)]

2020年11月6日

 

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『100分de名著 坂口安吾 堕落論』(大久保喬樹著、NHK出版)の第3回(NHK Eテレの放送第3回目で、第3章に相当)のタイトルは、「法隆寺より停車場を」という、これまた過激なものです。大久保喬樹さんの文章をそのまま引用します。

 

「『堕落論』が大きな反響をよんだのは、敗戦直後の混迷状況を鋭く見抜き、それに立ち向かうための大胆な処方箋をズバリと提示してみせたからです。しかし、実は、そこに説かれた思想自体は、なにも時代にあわせて生み出されたものではなく、すでに、それ以前から安吾本来の信念として主張されていたものでした。

(中略)

これは(『日本文化私観』は)、日本人を呪縛してきた伝統的日本文化観をばっさりと断ち切る、まさに爆弾的とも言える論考であり、安吾がすでに戦時中から一貫して無頼派的な思想を幅広い領域にわたって唱えつづけていたことを示すものです。それに世間の方が戦後になって追いついたというわけです。

(中略)

『日本文化私観』は、冒頭でまず、いかにも挑発的、挑戦的な調子で建築家ブルーノ・タウトの日本文化観に反駁(はんばく)するところから始まります。

 

 『僕は日本の古代文化に就(つい)て殆ど知識をもっていない。ブルーノ・タウトが絶賛する桂離宮も見たことがなく、玉泉(ぎょくせん)も大雅堂(たいがどう)も竹田(ちくでん)も鉄斎も知らないのである。いわんや、秦蔵六(はたぞうろく)だの竹源齋士など名前すら聞いたことがなく、第一、めったに旅行することがないので、祖国のあの町この村も、風俗も、山河も知らないのだ。タウトによれば日本に於ける最も俗悪な都市だという新潟市に僕は生まれ、彼の蔑(さげす)み嫌うところの上野から銀座への街、ネオン・サインを僕は愛す。茶の湯の法式など全然知らない代わりには、猥(みだり)に酔い痴れることをのみ知り、孤独の家居にいて、床(とこ)の間などというものに一顧を与えたこともない。

 けれども、そのような僕の生活が、祖国の光輝ある古代文化の伝統を見失ったという理由で、貧困なものだとは考えていない』

 

そして大久保喬樹さんの解説は、「より便利な生活が必要」という安吾の主張の紹介に続き、「文化は自然にはかなわない」、「人工の極致こそ美である」、という安吾の言葉を中心に進められていきます。安吾は、法隆寺でさえ邪魔だと思えば壊して停車場にすればいい、とまで言うのですが、それでは安吾にとって印象的な建物とはどんなものかと言うと、小菅(こすげ)刑務所の建物、ドライアイスの工場、入江に浮かぶ軍艦なのだそうです。

 

私がこの『100分de名著 坂口安吾 堕落論』(大久保喬樹著、NHK出版)を読んで「よかったなあ」と思ったのは、第4回(第4章)で、著者が坂口安吾論から岡本太郎に導いてくれた点です。岡本太郎は明治44年(1911年)生まれの洋画家・彫刻家。東京美術学校進学後、10年余りパリに滞在。あの「芸術は爆発だ!」の名言を残し、大阪万博の「太陽の塔」を制作したことで有名です。岡本は坂口安吾の思想や行動を受け継ぎ、既成の日本文化観を打ち破る新しい芸術を模索しました。岡本太郎縄文土器の奇怪な美に魅せられたようで、『四次元との対話 縄文土器論』を書いています。

 

最後に再び大久保喬樹さんの解説に戻って、終わりにします。

 

「いままでの常識的な美意識を根こそぎひっくりかえしてしまうような縄文土器の奇怪な美しさに触れて、岡本は、それまでの狭い日本伝統観と訣別し新たな日本美のあり方を提唱します。

 岡本は『伝統とは似たような形式をくりかえすことではありません』と述べます。長くヨーロッパで暮らした岡本は、世界の『非情でたくましい、さまざまの伝統』に触れてきたことで、帰国して触れた日本の文化、特に『伝統文化』と言われるものが『ひどくよわよわしく、陰性であるのにがっかり』してしまったのです。

(中略)

(岡本は)縄文土器のを生み出した精神のあり方に立ち戻ることで、従来の弥生土器から侘び寂(わびさび)にいたる平板で静的な伝統日本美術観の呪縛を断ち切り、現代の新たな美意識、倫理観、世界観を確立することを説くのです。

(中略)

 岡本は特に安吾の名を挙げてはいませんが、ここに述べられている主張はまさに『堕落論』『続堕落論』『日本文化私観』で主張されたメッセージを継承するものと言えるでしょう。

 付け加えるなら、テレビの画面から腕組みした岡本が大きな目玉をかっと見開くようにして言い放つ有名なキャッチフレーズ『芸術は爆発だ!』もまた、安吾の檄(げき)『堕落せよ!』の岡本版と言ってもさしつかえないでしょう。」

 

この安吾に思想を受け継いだ岡本太郎の芸術論、私にとって大変刺激になりました。岡本太郎の『四次元との対話 縄文土器論』はいつか読んでみたいと思います。

 

 

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