わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「日本の色を知る」(吉岡幸雄著、角川ソフィア文庫)

2019年10月24日

 

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新聞を見ていて、ふと目に止まった訃報。『吉岡幸雄氏(よしおか・さちお=染色史家、「染司よしおか」5代目当主)9月30日、心筋梗塞のため死去、73歳。京都市出身。伝統的な染色法による日本の色を探求し、10年に菊池寛賞を受賞した。』

何となくお名前に聞き覚えがありました。本棚を探すと、以前松江市島根県立美術館を訪れた時に、売店で気になって買って、そのままパラパラと拾い読みしただけで終わった吉岡さんの本がありました。「あっ、この人だ」と気が付き、もう一度、この機会に最初から最後まで読んで見ることにしました。

 

本の裏表紙カバーの説明にこの本の内容が的確に述べられています(以下そのまま引用)。

『化学染料を使わずに天然素材で糸や布を染めていた時代の色彩とは。植物染による日本の伝統色を追求してきた著者が、折々の季節、行事にまつわる色を解説。物語や歌に込められた四季の想いを手掛かりに、古来の色彩感覚を甦らせる。紅花(べにばな)、藍(あい)、刈安(かりやす)などによる古法の染色方式を解明しつつ、古くは平安時代にさかのぼり、日本人が色とどのように付き合ってきたかを紹介。』

 

季節ごとに植物染による色の世界をきれいなカラー写真で案内してくれます。第1章 日本の伝統色と 第3章 季の花色(二十四節気にちなんで)では、伝統色の解説とともに、京都の町とその周辺の年中行事が紹介されています。源氏物語枕草子万葉集などの内容が本文中のあちこちに引用され、著者の日本古典文学への造詣の深さがうかがえます。ふだんこれらの古典を余り真面目に読んでこなかった私などは、これを機会にちょっとこういう古典もつまんでみようか、という気にさせられます(実際に本気でかじりつくのはとても無理ですが)。京都の伏見に工房を構えておられたので、1年中、京都やその周辺地域の歴史と文化に触れてこられたのでしょう。ちょっとよそ者が追いつきそうにない知識と理解が感じられます。

 

私が好きなのは、第2章 千年の色 天然色を染める です。特に藍染の歴史について書かれた部分は、他の本でも読んだことがある内容もありますが、染織家自身の経験と知識が噛み合って、内容のある分かりやすい解説になっています。水彩絵の具にも「インディゴ」という色があります。これが「インドの藍」という意味だとは知りませんでした。16世紀から18世紀のヨーロッパでは藍といえば「インド藍」が当たり前で、ヨーロッパ人はこの藍に憧れました。当時はイギリスが独占的に貿易に関わってインド産の藍を輸入して利益を上げていたのだそうです。その後、明治時代になるとヨーロッパで化学染料が発明されました。天然藍も安価な化学染料の藍色にとってかわられたのです。吉岡さんはその天然藍染を復活させて伝統を守ってきたわけですね。私も天然藍染のTシャツやハンカチなどが欲しくなりました。

 

全体にこの本は中の写真が美しく、小さな図鑑のような雰囲気。さらに京都の季節ごとの案内書という機能も果たします。本の中にむやみに赤線でアンダーラインなどを引きたくない類の本です。京都の旅に一緒に持っていくと楽しいでしょう。