わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

美術館を訪ねる旅 — 岡山県立美術館

2019年10月26日

 

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岡山県立美術館で開かれている「熊谷守一 いのちを見つめて」展に行きました。今年は熊谷守一没後42年。熊谷守一の生涯と作品はこれまでいろいろな機会に紹介されてきました。今回、油彩画、水墨画、書、素描など約150点の作品が展示され、熊谷の全体像を知るとてもよい展覧会でした。

 

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初期の若い頃の作品は、やや画面が暗い。うまい絵なのでしょうが、正直、見ていてあまり気分が引き付けられません。当時、子供を次々に失うなどの不幸が続き、画面もそのような作者の感情を反映しているのでしょう。しかし、しばらく絵を中断した後、50歳代半ば60歳近くなって、「モリカズ様式」と呼ばれる単純化した線と形と色彩の絵が生まれ始め、それがやがて70歳代、そして80歳を越えても続き、個性的な作風がしっかりと確立されていったようです。

 

赤を基調とした線。単純ながら特徴を的確にとらえた形の表現。そして、少ない時には2色、多くても5、6色の絵の具で平面的に塗られた画面。バックの色は茶色が多く、これは多分地面の色を表しているのでしょう。画面に落ち着きを与えます。絵に近づいて見ると、筆の跡は丁寧で乱れていません。時に空を象徴すると思われる青や水色がバックに塗られたりします。日頃から対象をしっかり見つめていたのでしょう、単純化した線や形には無駄や余分なものがありません。全体に究極の単純化を施していますが、それが逆に見る者の想像力をかき立てます。

 

色の配置と色合い。そのバランスがまた素晴らしい。晩年に向かって色が明るくなっています。そして画面にみなぎるのが、命あるものへの愛です。花や昆虫や小動物が描く対象ですが、画面には彼らへの愛情が溢れています。こういうところが熊谷守一が一般の人から熱烈に支持される理由でしょう。今日はいい作品を沢山見せてもらい満足しました。私も出来ればこんな風に命尽きるまで好きな絵を描き続けていたい。そんな夢と希望を与えてくれる作品群でした。

 

熊谷守一については多くの本が書かれていますが、「仙人と呼ばれた男 画家・熊谷守一の生涯」(田村祥蔵著、中央公論新社)は、熊谷守一の97年の生涯をていねいにたどった良書です。ご参考までに。

 

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