わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『英語辞書の使いかた』(外山滋比古著、岩波ジュニア新書)

2020年10月30日

 

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先ごろ亡くなられた英語学者 外山滋比古さん(名著『思考の整理学』の著者)が中学生・高校生向けに書いた英語の辞書についての本です。岩波ジュニア新書の中の一冊で1983年第1刷のかなり古い本ですが、私はこの本を本棚のすぐ目につく場所に長い間置いています。

 

そもそも岩波ジュニア新書は「中高生向け」の本で内容が入門的で簡単すぎるのではと思っている人が多いかもしれません。しかし実際にいくつか読んでみると、優れた執筆者による質の高い内容の物が多く、驚かされます。大学生や社会人が読んでも十分役立つ内容のものが多いと言えます。

 

この『英語辞書の使いかた』もその例外ではありません。第I部 「辞書を使いこなすために」、第II部 「辞書を使って英文を読む」、第III部 「辞書のいろいろ」、の3つのセクションに渡って全部で55の話題が書かれています。時間がある時に、この本をパラパラとめくって、どこか一つの話題を読んでみると、どれもやさしくて、2,3分で読めます。しかしその内容は深く、「へえー、そうなんだ、そうだったんだ」と思わされることがしがしばです。すでに知っていることでも、外山さんの解説で更に認識が深まります。外山さんの文章はとても論理的でわかりやすいのが特徴ですが、その文章のキレと、書かれている内容の面白さが随所に感じられます。

 

私の場合、「英語の辞書」と言われて、まず一番に頭に浮かぶのは、高校時代に行っていた英語塾の先生の机周りの光景です。地方都市のゴミゴミとした古い木造家屋が立ち並ぶ一角にその先生の塾があって、玄関からすぐの階段を登った二階の二部屋のふすまを取り払って広い部屋にし、そこに座机を並べて、先生が黒板とチョークを使って週1回英語を教えて下さいました。生徒は30人ほど。先生はクリスチャンで青山学院の出身。当時かなりのお歳でしたが、独特の教授法で、私達に高校で習うのとは違う英語の世界を見せてくれました。その先生の古い木机が正面の黒板の右側にあり、その机の上には英語の大小の辞書類が積み上げられ、机の横の本棚にも英語の辞書が雑然と並んでいました。先生は授業中に絶えずどれかの辞書を手にとって開いて、何かをゆっくり確認してから話を進められていました。「この先生は辞書を読んでおられる(見ているのではなく)。すごいなあ」とその時単純に思ったものです。自分もいつかこんな風に辞書を使いこなしてみたいと思いましたが、今、自宅の自分の机の周りを見ると、英語関係の辞書はわずか3,4冊。それも中・小型サイズの普通の辞書です。今はインターネットの時代なので、昔ほど辞書類はいらないのかもしれません。でも、大小の辞書類に囲まれた机には何となく憧れがあります。

 

本書の第III部 辞書のいろいろ には、英語の辞書についても興味深い記述があります。英語の場合、辞書なしには文章はまず読めないし書けません。日本語でも国語辞典は文章書きには必須です。辞書は一般に価格が安い割には長く使えるので、コストパフォーマンスは非常によいと言えます。少し自己投資をして、自分に使いやすい英語辞典、国語辞典をそろえるというのは、とても大事なことだと思います。そのためには、いくつか種類のちがうものを買ってみて使い比べるということが必要になります。時間とお金がかかりますが、やる価値は十分あります。