わたしの水彩スケッチと読書の旅

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食糧抜きでは、コロナウイルス・パンデミックからの出口なんてありえない (Without food, there can be no exit from the pandemic, by Maximo Torero, Nature 580, 588-589 (2020)を読んで)

「世界の国々は、新型コロナウイルス(COVID-19)で引き起こされる全地球規模の食糧危機を回避するために力を合わせなければならない」という国連食糧農業機関(FAO)のチーフエコノミスト M.Torero氏のコメントが、イギリスの科学ジャーナルNatureに掲載されています。記事には、新型コロナウイルスの流行で、オランダ農家の貯蔵庫に行き場がなくてたまった大量のジャガイモの写真が添えられていました。

 

すでに報道されているように、世界の食料供給網(フード・サプライ・チェーン)がこの新型コロナウイルスの流行ですでに破綻しています。例えば、インドでは、農家が作ったイチゴを出荷できないため牛の餌にしていますし、ペルーでは、ホワイトココアの生産者がレストランやホテルなどが休止し買い手がつかないため、作ったものを大量に廃棄処分にしています。また米国やカナダでは同じ理由で牛乳を廃棄しています。また、フランス、ドイツ、イタリアの農場では東ヨーロッパや北アフリカからの移民の労働者が国境で足止めされているため、収穫が進んでいません。米国、カナダ、オーストラリアの農業は海外の季節労働者に大きく依存していますが、この海外労働者は、新型コロナウイルスのためにビザの発給が停止されていて、入国できません。またこれらの海外の労働者が入国の際に新型コロナウイルスを持ち込むことも心配されています。こんな状態で、せっかく作られた作物が収穫されず畑で腐ってしまっています。

 

幸い今年は穀類が豊作で、トウモロコシ、コメ、大豆の世界的備蓄は昨年より増えています。しかし、コロナの影響で穀類、野菜、果物の輸送がスムーズに出来ずに(船の荷揚げが人手不足で進まない)市場への供給が不足し、昨年の3月に比べて小麦は8%、コメは25%値上がりしています。ロシアは世界の主要な小麦輸出国ですが、国内向けの供給を優先させるために3ヶ月間小麦の輸出を規制すると最近発表しました。しかし、このような自国優先主義は、世界の食料供給網に依存する多くの国々の存在を無視することにつながります。世界の国々はお互いに農業関連の原料、肥料、農薬、家畜飼料、人的資源、専門的知識、技術などで支え合っています。食料生産には情報公開を通しての各国の協力が不可欠です。また、今回の新型コロナでは、過去のエボラ出血熱などの疫病流行時の経験から学ぶことも重要です。

 

このパンデミックで見えてきた大事なことは、食糧生産のためには世界での土地と水資源の持続可能な使用が重要ということです。そのためには食物の廃棄を少なくすることも大事です。今世界では年間4,000億ドル(米ドル)相当の食物を廃棄しています。それは年間12億6000万人の人を養える量に相当します。

 

このパンデミックは、しかし、新しい技術開発を促進する契機にもなっています。例えば中国では人と人との接触を避けるために、ドローンや無人自動車やその他の農業技術を導入しつつあります。アフリカでは携帯電話を使って市場、農産物価格、天気などの情報を得るようになりつつあります。コロナウイルスに打ち勝つには、全地球的な協力が欠かせません。特に食糧が人類のコロナへの戦いの様々な局面で欠かせないものであることは当然のことです。ここで世界が協力しなければ、これから何百万の人々が飢えることになります。

 

以上が大ざっぱですが記事の内容紹介です。日本も食糧の多くを海外に依存しています(我が国の食料自給率は2018年度が37%)。今日のニュースによるとホットケーキの粉や小麦粉がネット上で高値で販売されているそうです。しかし、日本には小麦粉の十分な備蓄があるので大丈夫と政府はコメントしています。実際、小麦粉がもし万が一無くなったら、米粉で代用すればいいでしょう。うどんが食べられなくても、そばやビーフンを食べればいいのです。地産地消で地域の生産者を支援する。もしゆとりがあれば、遠くの生産者からもその地域の名産品を購入する。コロナの期間中、食糧のことであまりパニックにならないよう、気をつけたいものです。

 

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