わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「三度目の日本」(堺屋太一著、祥伝社新書)

 

2019年9月23日

 

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1947年〜49年(昭和22年〜24年)生まれの私達の世代を「団塊の世代」と名付けてくれた堺屋太一さん(本年2月に84歳で死去)の最後の著書です。

 

序章「はじめに ― 本当の危機がやってくる」は、いきなり『今、日本人は三度目の「敗戦」状態にある。』という文章で始まります。著者の言う敗戦とは世の中の価値観が大きく変わることです。最初が幕末の1898年。2度目が、太平洋戦争が終わった1945年。そして3度目の敗戦が、平成が終わった今年2019年。

 

第1章から第4章までは、明治から平成までの政治と経済の動きが、堺屋さんの視点で分かりやすく解説されています。経済の専門家だけあって、時代の流れと経済の関係についての記述にとてもインパクトがあります。強い日本を目指した明治維新後の日本。豊かな日本を目指した戦後の日本。そして平成の30年間で見えてきた諸問題と、次第にあらわになってきた日本の行き詰まり。この中での日本の官僚主導政治の欠陥を繰り返し述べています。そして現在の日本についての指摘はとても厳しい。

『特に現在の日本社会の最大の危機は、社会の循環を促(うなが)す構造が崩れつつあることと、若者層に「人生の想像力が欠如している」ことである。つまり「人生をやる気」が無いのだ。「欲ない、夢ない、やる気ない」。「ない」の三つに共通する頭文字は「Y」だ。この「3Yない社会」こそが、現代日本の最大の危機であり、「三度目の敗戦」の大きな断面である』

 

この危機を乗り越えるためには、社会の価値観を大きく変えなければならないというのが著者の主張です。第5章「三度目の日本を作ろう」が本書の結論部分であり、著者の遺言ともいえる部分です。天国はやめよう、天国に地獄の風を、「楽しみ」を正義に、など新しい価値観創造につながる提言が書かれています。この部分の内容がもう少し膨らんでいるとよかったと私は思うのですが、堺屋さんにこれ以上筆を進める体力がなかったのでしょうか、あるいは「地獄」や「楽しみ」の中身を具体的に提案できるようなアイデアがまだ煮詰まっていなかったのかもしれません。あとは読者が自分たちで考えなさい、と問題提起をしているようにも感じました。

 

先日、ワシントン・ポストのデジタル記事のなかに「Japan, a dying country(日本、死にゆく国)」という論評が載っていて、いささかショックを受けました。「日本が外国人の受け入れに消極的で、このままだと世界に稀な単一民族国家なる。人種や価値観に多様性のない国は、次第に活力が衰え、そのような国に明るい未来は期待できない」、という内容でした。この論評も日本社会の均一性を批判するものです。堺屋さんのいう「天国に地獄の風を」という主張も、多分この外国人受け入れ促進のことも含めているのでしょう。

 

これから先、日本を取り巻く内外の諸問題をあまり深刻に考えすぎないで、ゆったりと構えて行きたい。いろいろなことに楽しみや喜びを感じられるような気持ちを持ちたい。自分の失敗や窮地を笑い飛ばすような精神的ゆとりを持ちたい。若者達に夢を持たせ、「三度目の日本」を立ち上げるために、我々団塊の世代にもやるべきことがまだまだありそうです。