わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「ぼんやりの時間」 (辰濃和男著、 岩波新書)

2016年4月20日

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私が今最も気に入っている本の一つが、この「ぼんやりの時間」です。2010年3月初版ですので、それほど古い本ではありません。まず、タイトルにひかれます。「はじめに」の部分で、まず著者が若いころ朝日新聞記者として南の島に取材に派遣された時のことが書かれています。青い海と空、そしてゆったりとした島の生活。それらを表すために出てくる「懶惰(らんだ)」という言葉。私が知らなかった言葉でした。新明解国語辞典によると、「なまけて、仕事・勉強などをしないでいる様子」とあります。日本人の感覚からするとあまりいい印象を与えない言葉かもしれません。しかし著者の辰濃さんはこの言葉がすごく気に入っているようです。この「懶惰」、言い換えれば、ものうい、何もしない、ボーッとしている、そんな状態を表す言葉です。

 

「のんびり」は私も大好きなので、すぐにこの本に心を奪われました。それから何度この本を読み返したことか。本文中には「のんびり」を愛した人たちの、その伝説的な「のんびり愛」の話が次々と出てきて、「ああ、時にはこんなにのんびり気を抜いてもいいんだ」と随分気持ちが楽になります。哲学者の串田孫一、作家の池波正太郎、物理学者の朝永振一郎、作家の国木田独歩、そして夏目漱石。いろいろな人の逸話を読むと、むしろ、のんびり何もしない時間をもつことが、創造的活動には絶対必要である、と納得させられます。

 

「のんびり」にはいろいろな「のんびり」があって、「極上ののんびり」は、たった一人で誰もいない自然のなかで過ごす時に経験する「のんびり」だそうです。これは私も同感です。一人で風景を水彩で描くときも、ある意味ではのんびりした時間かもしれません。何も考えずにぼーっとして絵を描くというわけでは決してありませんが、自然の中で絵を描いている間、こころと自然は一体化しています。鳥の声を聞いたり、風に木の葉がゆれるかすかな音を聞いたり、川のせせらぎを聞きながら絵筆を走らせる時間。後で振り返ると、じつに貴重なのんびりした時間をすごしたなあと満足します。

 

辰濃さんの本は、この他にも岩波新書で「文章の書き方」、「文章のみがき方」、「四国遍路」が出ています。どの本もいつの間にか読書に誘われるかたちになっていて、「あー本をよみたい!」と強烈に思わされる本ばかりです。


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