わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

「転校生」の二人が石段から転がり落ちた、あの「天満宮」で水彩スケッチ  尾道(備後・広島県)

2012年7月

林芙美子の「放浪記」や志賀直哉の「暗夜行路」で出てくる尾道は知らなくても、大林宣彦監督の映画「転校生」や「さびしんぼう」で出てくる尾道を知っている方は多いでしょう。それほど、これらの映画作品には、監督の故郷、尾道への思いが色濃くにじんでいます。私たちにとっては、あの映画に出演した小林聡美富田靖子の初々しい演技が忘れられませんね。今日はその尾道です。

 
山陽本線尾道駅に近づくと、寺院や坂道の多い尾道の町と造船所などが立ち並ぶ尾道の海が急に眼前にひろがり、「ああ、尾道に来たんだ」という感動というか感傷というか、なんとも言えない思いが襲ってきます。それぐらい、この町は日本の地方小都市の古くて良いものを大事に持っていて、訪れる人を強く引き付けてくれます。私は個人的には特に、国道沿いの鉄さびがこびりついたような赤茶けた民家の連なりと港の風情が何とも言えず好きです。

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 放浪記の林芙美子尾道を描いた文章は、やはり感情がこもっていてうまいですね。「海が見えた。海が見える。五年振りに見る尾道の海はなつかしい。汽車が尾道の海にさしかかると煤けた小さい町の屋根が提灯のように拡がってくる。 赤い千光寺の塔が見える。山は爽やかな若葉だ。緑色の海の向こうにドックの赤い船が帆柱を空に突きさしている。私は涙があふれていた。」(放浪記)。


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 今日は、尾道の古寺めぐりコースを歩きました。美しい日本の歩きたくなる道500選の中に、「お寺のまち・尾道七佛めぐり(6 km)コース」として選ばれています。尾道駅を降りで、歩いて10分程で最初のお寺「持光寺」です。それから、細い坂の多い路地を上り下りしながら、最後の「浄土寺」「海龍寺」まで歩きます。昔は西の奈良と呼ばれたそうで、それぐらいお寺や神社が次々と現れます。今日のお目当ては、「転校生」の主役二人が誤って転がり落ちた「御袖(みそで)天満宮」の石段をスケッチすることです。

 
今日は、尾道は大変な暑さで、ウオーキングを始めて直ぐに、衣類が汗でぐっしょりとなりました。水をいくら飲んでもまだのどが渇くというかなり悪いコンディションでしたが、千光寺の上りとケーブルでの下りを経て、目的の天満宮に到着しました。ここは、尾道東高校という高校のすぐ近くで、いかにも仲のいい高校生が寄り道しそうな場所です。「あー、ここだー!」と思わず感動して、石段を上り、その最上階に腰かけてスケッチしました。時折、私と同じように、昔、映画に感動した人たちなのか、カメラを持った中高年や若い人たちが訪れて、私と同じように石段に腰をかけてシャッターを押したり、物思いにふけったりしています。お寺巡りのコースを含めて今日は尾道の町中が暑いなかで、この石段のところは不思議な位、涼しい風が通って、別世界です。「転校生」のシーンを思い出しながらのスケッチ。時々私のスケッチを見に来る人と雑談しながらの、実に幸せな1時間でした。

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 これでかなり満足しましたが、最後までコースを歩こうと、また歩き始めました。そして、いくつかのお寺を経て最後に来たのが「浄土寺」です。ここは本堂をはじめとして境内の多建物がどれも国宝や国の重要文化財です。ちょうど日陰の場所に縁台が出してあったので、それをお借りして、目の前の建物(重要文化財阿弥陀堂1345年再建)をスケッチしました。夕方となり、空に黒い雲が広がり始め、遠くに雷鳴が聞こえるような状態になったので、大急ぎでスケッチして、着彩しました。そのうち、雨がポツリポツリ。あわててスケッチブックを片付けて、寺を下ってバス停へ。運よくすぐにバスが来てくれて、尾道駅へ帰り着きました。バスの乗ると雨が車窓に強く落ちてきました。


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今日は2回のスケッチ時間、志賀直哉旧宅、文学記念室と市立美術館の訪問、ケーブルカー頂上駅近くのレストランでの昼食時間(カツカレーと冷たい水のおかげで、暑さに参っていた体が元気を回復しました)、の時間を合わせて合計6時間。炎天下で、我ながらよく歩いてスケッチして、頑張りました。何年か振りで暑さに負けて買った自販機の缶コカコーラの味も格別でした。

 

備後(びんご)、いい響きですね(江戸時代の藩名はなんて美しい響きをもっているのでしょう)。尾道。是非、このままの姿でいて欲しい。日本の次の世代にこのまま残したい町とその風景です。