わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 『女性のいない民主主義』(前田健太郎著、岩波新書)

2021年10月1日

 

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先日の自民党総裁選挙では、候補者4人のうち2人が女性(高市さん、野田さん)でした。男性が女性に比べて圧倒的な数の優位示す日本の政治の世界で、今回珍しく女性候補が立ち、その発言や挙動が注目されました。二人の女性候補者の政策や政治信条・理念はともかく、今回の選挙で何か新しい風を感じた国民は多かったのではないでしょうか。

 

最近しきりにマスコミで報道されていることの一つ。それが日本社会であいかわらず深刻な男女の不平等とそこから来る相対的な女性の地位の低さです。朝日新聞の4月10日の記事によると、世界経済フォーラムが3月末に出した2021年の政治、経済、教育、健康の4分野14項目の指標ではかった男女平等の順位で日本は156カ国中120位でした。中でも政治は最後から10番目の低いレベル(スコアは、100点満点でわずかに6.1点!)。これは一体どこからくるのか。本書では「女性のいない民主主義」が今日の事態をもたらした大きな原因ではないかと述べています。

 

第1章「政治」とは何か、第2章「民主主義」の定義を考え直す、第3章「政策」は誰のためのものか、第4章 誰が、どのように「政治家」になるのか。著者の前田健太郎氏は東大法学部で行政学政治学を教育・研究する比較的若い政治学者です。

 

今回の自民党総裁選挙、そして間もなく始まる衆議院選挙と、選挙が身近に感じられる時期なので、第4章は一番関心をもって読みました。なぜ日本の選挙では女性候補者が少ないのか(したがって、女性議員も少ないのか)、選挙制度がこの問題に影響しているのか、議員の男女不均衡を是正するための方策とはどんなものか(クオータ制など)、の問題がデータをもとに丁寧に説明されています。

 

本の構成としては、政治学の典型的な教科書に取り上げられているテーマを紹介し、それに対して、著者がジェンダーの視点から批判を展開しています。政治学に馴染みがない読者も、よく整理された論点を読み進むうちに、次第にこの学問分野の雰囲気を理解し、まだ同時に現在の民主主義の抱える「女性の視点の欠如」という大きな欠陥に気づかされます。

 

読みながらの印象は、まるで東大法学部の教室で若手の教員から熱のこもった政治学の講義を受けているような、そんな感じです。この講義を聴いた若い学生さん達が、「それなら自分たちも日本政治の改革に取り組もう」と意欲をかきたてられている場面も想像できそうです。

 

若者が希望をもてない日本ではだめでしょう。それと同じように女性が希望をもてない日本ではだめです。男女がともに活躍できる社会を目指すためには、本書で書かれているように現在の日本の民主主義をジェンダーの視点で批判的に考えてみることが大切です。ちなみに自民党の総裁選挙では、この女性の地位問題は、2人の女性候補者がいながら、大きな議論にはなりませんでした。