わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか?  『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎著、光文社新書)

2020年6月16日

 

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若い昆虫生態学者、前野ウルド浩太郎さんのアフリカでの研究奮闘記です。前野さんの研究テーマはアフリカで大発生するサバクトビバッタの生態。アフリカのモーリタニアでの研究の様子が生き生きとした筆致で描かれています。大学院博士課程を終えて、さあこれから一人前の研究者になろうとすると、誰でも海外で2,3年、長い時にはそれ以上の期間、訓練を兼ねて研究修行するのが普通です。これをポストドクと言います(博士号を取得した後のトレーニング期間)。生態学を志す人は、自分のテーマを研究するために現場で経験を積むことになります。その時の海外での様々な経験は、多くの科学者の将来を決める上で、重要な基礎になります。そのような経験を経た後に、初めて大学や研究機関の研究職に採用されて、安定的に給料をもらえる立場になります。

 

このポストドク期間や、研究職に採用された後にずっと経験しつづける研究者間の競争・うまく研究成果をあげた時の感動・逆にうまく行かなかった時の絶望と挫折。これはなかなか言葉では言い表せないものですが、前野さんはこの辺りの事情を個人的なことを含めて、一般の読者にわかりやすく説明しています。もちろん、モーリタニアでのバッタ研究という、とてもユニークな研究現場で、毎日一緒に働く同僚、現場で出会う人々や様々な現地の状況など、その一つ一つが読者を引きつけます。そして、とにかく本書に溢れる若い前野さんのバイタリティー。実際、研究を行う上でこれが彼の最大の武器だったのでしょう。何度となく訪れる苦境をこのバイタリティーで乗り越えます。その辺りの記述がとても魅力的です。

 

私自身も大学の研究者でした。分野は違いますが、似たような経験を積んできました。研究者は元来、かなり楽観的でないとつとまらないと思います。小さな失敗にはくよくよしないで、高みを目指して日々努力する。研究費が取れなくてもなんとかしのぐ(実は日本の研究者、特に若手は、他の先進諸国に比べて国からの研究費がかなり少なく、困窮しています)。日本でも世界でも、多くの研究者と呼ばれる人達が多かれ少なかれこのような状態で毎日を過ごしています。それでも、自分の研究テーマに没頭できる日々は、一般の社会から見ると夢の様かもしれません。研究では激烈な競争にさらされ続けますが、その中で何とか生き残っていけると、何とも言えない充足感、達成感を感じます。

 

著者の前野さんは現在40歳前後。研究者としてはまだ、これから2つも3つも超えなければならない山があるでしょう。多分持ち前のバイタリティーがここでも発揮されることを祈ってエールを送りたいと思います。具体的にどんな研究成果が出たのか、どのようにアフリカの農業の現場に役立ったのか、また別の機会に分かりやすく読者に説明してもらえると嬉しく思います。