わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

美術館をめぐる旅 ― 周南市美術博物館 (山口県周南市 周南市美術博物館)

2018年12月


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山口県周南市周南市美術博物館で開催されている「生誕100年 林忠彦展」を見ました。周南市と言ってもすぐにピンと来ませんが、新幹線の徳山駅と言えば、ああ新幹線から巨大はコンビナートが見えるあの街か、と分かると思います。この周南市美術博物館には詩人のまど・みちおの常設展示もあり、いつか来てみたいと思っていました。今回、写真家の林忠彦の生誕100年記念展が開催されていることをNHKの「日曜美術館」を見て知り、新幹線でやってきました。

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JR徳山駅を新幹線で通過すると、巨大な石油コンビナートがすぐ目の前の海岸を埋め尽くし、工場の煙突からはもくもくと煙がのぼっているのが見えます。申し訳ないのですが、これを目にすると、「ああ、この街には住みたくないな」という印象をもってしまいます。今回初めてJR徳山駅に降りて、工場が立ち並ぶ海岸側とは反対の山側に広がる市街地を歩きました。駅前からイチョウなどの街路樹が植えられたきれいな通りが伸びる明るい町並みでした。企業城下町なので大企業からの税金などで街が財政的に潤っているのでしょう。街の意外な美しさと落ち着きにびっくりしながら30分ほど歩くと、国道2号線に沿って建つ美術館博物館に来ました。


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林忠彦は大正7年(1918年)、周南市の写真館に生まれました。写真学校で学んだ後、プロの写真家として活動を開始。戦時中の日本、戦後の東京の焼け跡と復興、急速な経済発展下の日本の姿を記録しました。特に人物写真が得意で、日本の作家(織田作之助太宰治坂口安吾谷崎潤一郎三島由紀夫川端康成など)を撮った写真が有名です。その他、画家、映画スター、家元などの写真が並び、これだけで150点ぐらいが展示されています。林に言わせれば、人物写真は被写体の人物に密着して、やがて瞬間を捉えて切り込む真剣勝負なのだそうです。


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私が関心をもったのは、林忠彦が人生の晩年近くになって撮った「東海道」などの風景写真(60点余り)でした。私もいつか、東海道でなくてもいいので、どこか古い街道筋を歩いて、その風景をスケッチしたいと思っています。そんな時、プロの写真家の選ぶ構図やアングルがどんなものなのか、とても興味があります。林忠彦の場合、夜明けや日没時の暗闇の中でのほのかな光の中で照らし出されるものの一瞬の美しさを写真に捉えています。やはり写真でしかできない自然の描写です。従って、林忠彦の画面は全体に暗さや陰影が勝っているような気がします。私が水彩風景画を描く場合は、太陽の放つ圧倒的な光の中での風景の美しさ(光と影)を絵にしたいと思っています。なので、基本的に視点が違います。


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絵は一般に「一瞬」を捉えるのが苦手です。しかし、うまくやると、その場の雰囲気や臨場感を、時間の厚みをもって、自分自身の目(視覚)と頭(頭脳)を通して表現できます。特に現場で描く水彩画の場合は、現場の空気感を限られた時間内でどうやって表現するかが自分の個性の見せ所です。カメラのレンズを通して1枚の写真が捉える瞬間の現実感と、それが見せる美。それに向けての写真家の真剣勝負。それに対して、時間の厚みをもちながらも現実を捉えて、それを人間の力で美しさまで昇華させる水彩画。2つの表現手法の違いを強く感じる今回の旅でした。
 
常設展の、まど・みちおの詩と絵、も勉強になりました。
美術館博物館の帰りに、近くの和食の店に寄りました。定食のエビフライ定食を頼みましたが、これが秀逸でした。たった千円で二匹の大きなエビフライのついた美味しい定食。街の人に大人気の店で、平日なのに店の中でたくさんのお客さんが順番を待っていました。満員で3階に案内されましたが、注文の後、時間をそれほど待たずに定食の大きなお盆が出て来ました。「ここで食べる」と諦めずに待った甲斐がありました。

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