わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

寂しさを 切り開いて行く 根室線 (北海道 根室本線 根室・ノサップ岬への旅)

2017年5月


イメージ 2

 

早春の北海道に来ました。今回の旅の目的地は根室のノサップ(納沙布)岬。北方四島をこの目で確かめ、水彩スケッチに残したいとの思いで出かけました。

 

午前中に新千歳空港に到着して、早い昼食を食べてお昼前のJRで南千歳へ。空港から1駅3分です。その南千歳で石勝線・根室本線の釧路行き特急「おおぞら」に乗り換えました。「おおぞら」は札幌と釧路とをつなぐ、いわば東・北海道の新幹線です。車内は快適で、予め買っていた指定席は余り混んでいなくて、二人席を一人で使って3時間半、ゆったりと車窓の景色を眺めることが出来ました。


イメージ 1

 

今回の旅では昨年買った「全日本鉄道旅行地図帳」(小学館)が大活躍。この地図帳を座席前のテーブルに広げて、路線の駅名を一つ一つ目でたどりながらの旅です。乗車後しばらくして通過した新夕張。炭鉱と夕張メロンが有名な夕張市の近くです。夕張は財政破綻した町としても有名です。地図帳のコメントは 『かつては賑わったろう炭鉱住宅が切ない』。なるほどねえ。確かにそんな雰囲気があります。


そしてやがて列車は夕張山地、日高山脈の深い山の中へ。地図に記載されているコメントは 『人よりクマのほうが明らかに多そうな山奥』。この地図帳の編集者、なかなかズバッと思ったことを書いています。地図を見るほうも、このコメントに何だかビビってしまいます。


最近リゾートで有名なトマムを経て、列車はやがて十勝平野へ。広大なジャガイモ畑が見えます。そしてこの地域では最も大都会の帯広へ。帯広畜産大学があって名前だけはよく知っていましたが、来るのは初めて。札幌と同じく広い道路が碁盤の目状に整備され、近代的な街です。


イメージ 3

 

そしてやがて列車は太平洋が見える海岸線を走ります。地図のコメントは『旅情醸(かも)す低木中心の寂寥(せきりょう)とした海辺の風景』。まさにその通りです。この辺りは気温が低いせいか、木々の若葉がやっと出始めたばかりで、広大な樹林のほとんどが裸の枝に黄緑色の小さな葉をつけた状態です。そして予定どおり釧路到着。釧路は比較的大きな街です。ここで続けて根室行きの快速電車に乗り換えます。ホームは肌寒く、あわててカーディガンと更にその上からウインドヤッケを着込みました。時刻は午後4時過ぎ。これから根室まで20駅ほど、2時間半の旅です。根室到着は午後7時前になります。

 

ホームで待っていると根室行きの快速が入ってきました。なんと一両だけのトイレつきワンマンカーです。同じホームで待っていた小さな子供を二人連れた観光旅行のお母さんが「ええー、これなの?!」と思わず驚きの声。ええ、これなんですね。根室行き快速と書いてあるのですが、乗ってみると確かに快速でした。途中の駅と駅の間が長い!途中でほとんど誰も乗り降りしないので早く出発する。一両だけの身軽さ。


この快速が釧路を出発した頃から海からの霧が濃くなってきました。この霧の中をこのワンマンカーはどんどん進みます。辺りは次第に暗くなり、深い霧の中でまわりの景色があまり見えなくなり、しかし時々太平洋と荒涼とした浜辺が見えます。厚岸(あつけし)の不思議な湿原海岸を過ぎて、やがてワンマンカーは落石(おちいし)という駅を通過。駅名を聞くだけで怖くなります。地図帳のコメントを見ると、『荒涼とした落石岬。最果て感は日本有数』とあります。いやあ、コメント有難う。本当に最果て感いっぱいです。次第に寂しさがつのってきました。


イメージ 4

 

濃い霧で、車窓から景色が見えないので、仕方なく手帳を取り出してシロウトの俳句をひねりました。この寂寥感が手伝ってか、寂しい俳句が次々とできました。

 

「寂しさと たたかう車窓 根室線

「これ描けと 言われても描けぬ 寂寥(せきりょう)感」

 

こんな霧の中の小さな無人駅で、一人で降りて線路を渡り霧の中に消える若い女性を見てびっくり。こういう所に住んでいると、人間が鍛えられますね。

「霧深き 原野に降り立つ 人ありき」

 

空腹感も出て来ました。根室で何を食べようかとスマホでチェック。しかし、駅前には何もなさそう。

「夕食は 何を食べよう 霧の街」

 

そして、日本最東端の駅である東根室を過ぎて終着駅の根室。いやあ、この2時間半の鈍行の旅には満足しました。鈍行でよかった。たっぷり寂しくて、人恋しくなりました。


イメージ 5


降り立った根室駅。予想に反して小さな駅でした。時刻表を見ると1日6往復の「快速」が根室―釧路間を走っているだけ。それでも若い駅員さんがキビキビと働いていました。JRの皆さんに感謝と敬意の気持ちを強く感じました。毎日ご苦労さんです。

 
イメージ 6


駅前は夜霧に包まれていました。とにかくホテルを見つけようとスマホに頼ってホテル探し。途中で午後7時閉店のスーパーに立ち寄り、果物とヨーグルトとパンを買ってとりあえず食料確保。無事ホテルを見つけてチェックイン。何だか疲れて、寂しい夜の街の食堂をさがす気が無くなって、買ってきた食料で夕食を済ませました。明日は、いよいよ目的地のノサップ(納沙布)岬です。

 

最後に締めくくりの一句。根室の皆さんごめんなさい。本当に寂しかったんです。

「最果ての 寂しき町に 降りにけり」


イメージ 7