わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか?  『電池が起こすエネルギー革命』(吉野 彰著、NHK出版)

2020年7月12日

 

f:id:yaswatercolor:20200712150027j:plain

 

 

NHKカルチャーラジオ「科学と人間」のシリーズの中の1冊です。我が家では10年前に家の屋根に太陽光発電パネルを設置しました。自家発電して余った電気は電力会社に売っていますが、その売電価格が10年間の優遇期間を過ぎた昨年11月からそれまでの約1/7に引き下げられ、自家発電した電気は売るよりむしろ自分の家で消費したほうが得という事態になりました。自家発電した電気を自分で使うためには一旦その電気をためる蓄電池が要ります。それで、いろいろ迷った末に思い切って蓄電池を購入することにし、先日業者に設置してもらいました。購入したのは家庭用中型のリチウムイオン電池です。

 

リチウムイオン電池とはいったいどういう物で、どんな仕組みで電気をためられるのか。消費者としては、ただ単に物を買うだけでなく、その物がどんな仕組みで動くのか知りたくなります。そこで、リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞した吉野 彰さんの本を読んで勉強することにしました。

 

この本では、一般的な電池の原理、電池開発の歴史、リチウムイオン電池の特徴、リチウムイオン電池開発から製品化までの過程で起きた様々な問題、将来への展望について書かれています。吉野さんが一般向けにNHKラジオで2017年10月〜12月に解説をされた時に、この小冊子が発売されました(吉野さんがノーベル化学賞を受賞したのは2019年)。

 

電池の原理については、その昔、中学校の理科の時間に学び、高校の化学でも勉強しました。中心の炭素棒が正極、周りを囲む容器の亜鉛が負極で、二酸化マンガン(活物質と言います)や電解質の塩化亜鉛水溶液を含む湿った糊状のものが中に満たされている普通の乾電池の断面図を思い出します。しかし、最近のこの分野の進歩は著しく、時代の変化とともに新しい電池が次々と開発されてきました。上に述べた一般的なマンガン乾電池アルカリマンガン乾電池(内部の電解質としてアルカリ性の水酸化カリウム溶液を使用)の他に、リチウム電池(カメラ、電卓、火災報知器用)、銀電池(腕時計、電子体温計用)、空気電池(補聴器用)などがいわゆる使い捨て電池(一次電池)として開発され、充電可能な電池(二次電池)としては鉛蓄電池(自動車用)、リチウムイオン電池スマホ、ゲーム機、デジタルカメラ、ノートパソコン、電気自動車用)、ニッケル−水素電池(電動自転車、ハイブリッド自動車用)、ニッケル−カドミウム電池(電動歯ブラシ用)などがあります。使い道に応じて様々な電池が使い分けられているのが実に驚きです。その他にも、水素と酸素から水が生じる化学反応を利用して電気をつくる燃料電池太陽光発電太陽電池などがあり、まさに現代はこの本のタイトルにあるように、「電池が起こすエネルギー革命」の時代の真っ只中にあります。

 

吉野さんは大学院修了後、企業(旭化成)に入社し、研究を始められました。しかし、初めからリチウムイオン電池の開発に携わった訳ではなく、それまでに異なるテーマで研究をされ、そのいずれもうまくいかず、4つ目のテーマがこのリチウムイオン電池だったそうです。企業では研究のシーズ(種)を社会的なニーズ(必要性)にどう結びつけるかが実に難しいと述べられています。吉野さん自身が世の中の技術革新のダイナミックな動きを横目で追いながら、他社との厳しい競争の中で、社会が求めているものを先んじて開発し製品化するという課題にどう取り組んだか。それがよく分かります。その結果がリチウムイオン電池の開発と製品化につながり、ノーベル化学賞受賞となりました。ノーベル賞というのは、やはり社会へ与えるインパクトの大きさが大事な選考ポイントになるのだと感じます。

 

吉野さんによれば、1995年以降から始まったパソコン、インターネット、携帯電話を中心とするIT革命(ITはInformation & Technologyの略で、情報と技術)で重要な基幹部品となったのが大規模集積回路二次電池(蓄電池)、そしてディスプレイでした。逆にIT革命で消えていったのが、銀塩写真、レコード、ニッケルカドミウム電池ニッケルカドミウム電池は、エジソンの時代から延々と100年近くも使われてきたのですが、これがリチウムイオン電池に置き換わりました。

 

そしてこれから2025年ぐらいにかけて顕著になるのがET革命だそうです。ETとはEnvironment & Energy (環境とエネルギー)の略です。ET革命の結果消えていくのが、白熱電球(消費電力の少ないLEDに置き換わりつつあります)、交流送電(つまり今の送電システムが直流に変わる!?)、そして内燃機関(つまりエンジン)。そしてET革命で重要となるのが二次電池(蓄電池)、パワーエレクトロニクス(高電圧、大電流を制御するエレクトロニクス)、そしてAI (Artificial Intelligence) つまり人工知能です。そして電気自動車が普及する2025年以降、マイカーは次第に世の中から消えていき、AIで動く無人タクシーの時代が来るそうです!それまであとわずか5年。私はもう完璧な高齢者ですが、是非そのような時代の到来をこの目で見てみたいです!!

 

とにかくこの本は分かりやすくて面白い。新型コロナで社会が大きく変化し、地球温暖化で自然環境が私達の生活に大きな影響を与える中で、このET革命が世界にどんな変革をもたらすのか、この5年〜10年は目が離せません。